当然、「おめでとう」と祝福することもできなくて、お父さんと鈴子さんと麻妃ちゃんが楽しげに話している姿を呆然と眺めていた。
せっかくうまくできたパエリアを一口食べたけれど、美味しいと感じられなかった。
「わ、私」
ずっと黙り込んでいた私は、ご飯を全て食べきる前に椅子から立ち上がった。
こんなぐちゃぐちゃな気持ちのまま、ここにいたらダメだ。
気持ちを整理しないと。
……そうしないと、本音をこぼしてしまいそう。
「ちょっと散歩してくるね」
頭に浮かんだ理由を並べて、冷静になるために家を飛び出した。
バタンと扉が締まる音と共に、私を呼び止めようとしているお父さんの「羽留!」という声が聞こえた。
家を出る前、私は上手に笑えていたかな?
目を閉じても、鈴子さんと麻妃ちゃんの顔をはっきりとは思い出せない。
――しっかりしなくちゃ。
私の肩につくくらいのこげ茶色の髪が、ふわりと吹いた夜風によってなびいた。
とても、冷たい風だった。



