危険地帯




こんな不幸を、残酷さを、誰だって望んではいなかっただろう。


お母さんの怒りの矛先は、私に向けられた。



『どうして、どうしてよ!』



初めて見る、お母さんの真っ黒な憎悪。


私の目からは、雨のように冷たい涙が流れていた。



お母さんは確かに私を見ているのに。


お母さんの視界に、私は映っていなくて。


パリンッパリンッ、と皿が割られる音が、私の心を傷つけていた。



『もうやめろ……!』


『あなたにはわからないわ。この苦しみが!』


『だが、羽留に八つ当たりするのは間違ってる』


『八つ当たりじゃないわ』



当然のことだと、お母さんの口が言っていた。


お母さんの笑顔が、一瞬で消えて。


お父さんは、お母さんを止めようと頑張っていた。