危険地帯




お父さんは、すぐにお母さんを病院に連れて行った。


けれど、医者は首を横に振った。



『残念ですが』



そんな前置きをした医者に、お母さんの表情は絶望の色を浮かべた。



『もう二度と、バイオリンを弾くことはできないでしょう』



割れた食器の欠片は、お母さんの手を深く貫いてしまっていた。


そのせいで、お母さんの手は生活するには平気だそうだが、バイオリンを弾くことはできなくなってしまった。



お母さんの宝物であるバイオリン。


私は、お母さんから宝物を奪ったんだ。




家に戻ると、お母さんは涙で潤んだ瞳を鋭くさせて、私を睨んだ。



『こんなの、望んでなかった!!』



お母さんは、食器棚から大きな皿を取って、怒りを込めるように皿を床に叩きつけた。


パリンッ、と皿が割れる音が、家に響き渡る。