危険地帯




床に倒れたお母さんの方に、視線を落とす。


その時、お母さんの悲鳴の意味を、理解した。



『……お母さ、ん』


『大丈夫か!?』


『ああああ!』



視界を埋める、割れた食器と、お母さんと。


お母さんの、バイオリンを弾く手から溢れる、真っ赤な血。



お母さんの商売道具であり、バイオリンを弾くにはなくてはならない大事な手に、割れた食器の欠片が刺さってしまったのだ。



お母さんは、痛くて泣いているのではない。


憎んでいるのだ。


この、残酷な現実に。


そして、それをもたらした私に。



些細なわがままが、口喧嘩が。


――私の6歳の誕生日が。


狂おしいほどの不幸を、招いてしまった。