危険地帯





私を視界から外したお母さんは、甘い香りを撒き散らしながら、私に肩をぶつけて、通り過ぎていった。


最後まで、お母さんの口から私の名前を聞くことがないまま。


力がなくなってしまったように地面に座り込んだ私に、律が駆け寄ってきた。



「羽留、大丈夫!?さっきの女、なんなの!?」



私を支えるように私の肩を掴んだ律は、去っていくお母さんを睨みつける。


やめて、律。


私が、悪いんだから。



お母さんが私を憎むのは、仕方のないこと。


受け入れなければ、いけないこと。


だって、私のせいで、お母さんの人生は狂ってしまったのだから。



「……り、つ」


「羽留!?」



この苦しみから逃れるように、私は自ら意識を手放した。


固く閉じられた瞼は、いやに重く感じた。