【相良深月side】



“あの日”から、俺を作り上げていたものを、ひとつひとつ壊していった。


常識も、日常も、愛も。


完全に消去できなかったそれらを、ずっと胸の内側に忍ばせていた。






羽留が倒れてから、倉庫内は他人の息遣いがわかるくらい静かだった。


元神雷の姫が指揮を取って、各自に羽留の命を第一に考えた命令を下した。


命令は、とてもシンプルで。



俺達黒龍が羽留を病院に連れて行き、神雷はこのまま撤退するというものだ。



それは裏の世界の住人にとっては、異例のことだ。


喧嘩の勝負はついていないのに、どちらともなく引き下がるのだから。


けれど、お互いに異論はなく、元神雷の姫の命令に反論する者は誰ひとりとしていなかった。



族同士の喧嘩に、一般人が巻き込まれ、意識不明の重体。


最悪な結末が、悪夢のような事実が、この場にいた全員の頭にこびりついて。


倉庫に漂う気まずい空気を、圧縮させた。