想いを奏でる音楽室



私は放課後、音楽室でピアノをひいていた。

カノンていう曲を‥。


千明くんと出会った曲。

丁寧に‥丁寧に‥千明くんとの思い出を振り返りながら‥






パチパチパチ!

曲が終わると拍手をする音がした。

私が振り向くと‥


「やっぱり、花音がひくピアノはうまいね!」


そこには千明くんがいた。


「ありがとう‥。」


今日は千明くんに話さなくてはいけない。だけど‥勇気が出ない‥。



「今日のピアノは聞いててすごく心地よかったよ。何かあった?」


千明くんはいつも通りに聞いてきた。

「‥これね‥千明くんのことを想ってひいたんだ‥。‥ッ‥。」

まだ何も大事なこと言ってないのに涙が溢れ出した。


すると千明くんはうしろから私を抱きしめた。

「ち‥千明‥くん?」


千明くんは優しい表情で私に言った。



「俺のことは気にせずにさ‥花音がやりたいようにやったらいいよ。花音の夢、叶ってほしいからさ‥。」



「‥ッ‥!‥‥ごめん‥ごめんね‥千明くん‥。言えなくて‥ごめん‥。」

涙が溢れて止まらなくなった。

千明くんも気づいていた。私が悩んでいることに‥。


千明くんにはそんなこと言わせたくなかった。言わせたくなかったのに‥言わせてしまった。


私が‥なかなか決められなかったから‥。

「謝らなくていい。‥花音の音でわかった。悩んでるて。‥ピアノの音でしか花音の気持ちが分からないなんて、俺もまだまだだな。」

千明くんはそう言って笑った。


「千明くん‥フランス留学のこと、黙ってて‥‥ごめん。私、ずっと悩んでた。将来、どうしたいのか‥。」


千明くんは抱きしめるのをやめて、花音の隣に椅子を持ってきて話を聞いていた。


「私‥やっぱり、ピアニストになりたい。‥だから‥フランスに行ってピアノのことを勉強したいて思ったんだ。」

「‥そっか‥。」

千明くんは真剣に話を聞いてくれていた。


「でも‥不安もある。それは‥千明くんのこと‥。千明くんのことも考えた上での答えのつもり‥。」



つらい‥。もしかしたら‥千明くんは私以上につらいかもしれない‥。

もう‥これまでかな‥



「‥花音。別れたかったら別れてもいいよ。」

千明くんは優しい表情で言う。

「留学に支障が出るなら、別れよう。‥‥俺は、たとえ遠距離になったとしても、花音の帰りを待ち続けるつもりだよ。」



千明くんの優しい表情の中には決意もあったのだ。

私の目からはまた涙が溢れて止まらなくなった。



「これは俺の気持ち。あとは‥花音が決めて。覚悟は出来てるから‥。」


千明くんの想いに私の想いも溢れ出す。


「‥本当は別れたくなんかないよ‥。私以外の女の人が千明くんのそばにいることなんか考えたくない‥。‥だけどいつ、帰って来られるか分からないのに‥千明くんを1人にさせたくない。」


これが私の想い。