「‥そっち‥行ってもいい?」

私は道場の方を指さした。

「ああ、いいけど‥。」

その声を聞いて私は樹生くんのいる場所に向かった。

道場は思っていたよりも広かった。


「俺の前よりも来たら駄目だからな。怪我するから。気をつけろ。」


注意を受け、私は樹生くんから離れた場所から見学することにした。


「‥何か、あったのか?‥元気‥なさそうだけど‥。」

樹生くんは弓を引きながら遠慮がちに聞いてきた。


‥そんなに元気がないように見えるのか‥。

「‥何もないよ。いつも通りだから‥。」


‥嘘。いつも通りなんかじゃない‥。

「そっか‥。」

樹生くんも樹生くんでそれ以上は踏み込んで来なかった。

的にめがけて矢を放とうとする樹生くんに私はふと疑問に思ったことをぶつけてみた。

「ねぇ‥樹生くんは‥結ちゃんのこと好きなの?」



ガツン!!!


樹生くんの放った矢は的から大きく外れ、的のうしろにある板にささった。


樹生くんは‥私のいる方向に顔を向けた。


「‥花音。邪魔するんだったら出ていってもらうよ?」


明らかに動揺している様子が見られた。


「ご、ごめん!!ちょっと‥気になっちゃって‥。」

かわいいと思いつつも少し申し訳なくなった。

「何か言ってたあいつ?」

「特に言ってないよ‥。」

するとなぜか、樹生くんは視線をそらせて言った。

「そっか‥。」

その顔は少し、悲しそうだった。

「‥樹生くんは‥結ちゃんのこと、どう思ってるの?」


「結のこと好きだよ。」

即答だった。

私はお泊まり会をしたときの結ちゃんの泣いている顔が浮かんだ。


「じゃあ‥なんで‥」


そこまで言ったとき、私と樹生くんの視線がぶつかった。

「やっぱり、あのこと聞いてたんだな‥。」

それを聞いた瞬間、私はやってしまった!と思った。

「ご‥ごめん。‥でも!なんでなの?好きならなんで‥。」

樹生くんは私に顔を見えたくないのか弓を構え直しながら言った。


「結の好きな奴が俺でいいのかなて思った。」

「えっ!?」

意外な言葉だった。


「中学から一緒で‥いろんなあいつを見てきて‥。俺の中でも友達じゃいられなくなっていた‥。中学の時からずっと好きだったんだ。」


「‥‥‥‥。」

私は樹生くんの話を聞いていた。


「でも‥不安もあった。俺なんかで本当にいいのか‥後悔しないのか‥。俺なんかよりも、いい奴いるし‥。‥だから‥俺は部活を言い訳にして逃げた。」



ガツン!

樹生くんの放った矢は的にささった。


「‥‥俺、最低だよな‥。大事なところで逃げて‥。自分の気持ちからも逃げて。本当にどうしようもない奴。」