シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

「適当な速さで叩くよ」

 だだん、すたっ、とドラムが鳴り始める。
 安定した8ビートだ。

 するっと、大縄跳びの輪に入るように遥人のベースが絡み、亜依のドラムに乗る。
 双子のように息の合ったリズムに、どうやって航が音を入れるのか注目していると、航は鍵盤を弾くのではなく、ハミングで加わった。
 ボーカルマイクがないから、音量ではやや負けているけれど、心を引っ張られる声だ。
 眼鏡の奥の目を閉じて、遠くへ飛ばすように歌う。
 そして虹のようなコードがかぶさる。
 ようやくトライクロマティックがそろった。

 あくまでお試しのセッション、というノリで始めた三人の表情が、本気度を増してゆく。
 音を鳴らして。
 さらに音を重ねて。
 誰の指図もなく、自由に。
 つながって、絡み合って、ぐちゃぐちゃに混ざって、もつれをほどいて、寄り添って。
 三つの熱が、色が、混ざり合って綺麗な放物線になる。
 この瞬間を逃したら、二度と聴けない。
 私は真剣に彼らの和音を受け止めた。

 初めてのセッションとは思えなかった。
 聴いているわたしを揺さぶる即興演奏。 
 知っている曲をなぞるのとは違う。一歩先は見えなくて、でも暗闇から音符を手繰り寄せるように奏でる三人。
 すごい。天才だ。最強のトリオだ。