此処からなら、声を張れば聞こえるかも。
「お母さーん、今日鍵持っていかないからー」
リビングで、朝食の片付けをしている筈の母に話しかける。
ガチャっと、リビングに通じる扉が開く。
「はあ?なんでよ、鍵の意味ないじゃない」
開いた扉から、母が顔を覗かせそう言った。
話しかけられた事にか、出てくるのが面倒だったのか苛立っているが無視して続ける。
「部屋に置いて来ちゃった。
何処に置いたか分かんないし、いつもの時間だから家に居るでしょ?」
「午前中に買い物は済ませるつもりだから、いると思うけど...」
専業主婦の母は大体家にいるし、
夕方に家にいない時は買い物に出かけてるか近所で立ち話してる。
「ならいいじゃん、時間やばいし行ってきまーす」
「あ、ちょっと!!!」
腕時計を確認すると出なきゃいけない時間で。
鍵かけるのよろしくー。
まだ何か言いたそうな母にそう言い、これまた無視して外に出る。
通学路を歩き出しながら考える。
(そう言えば、なんで買物なのに夕方に行かないんだろう)
今更だけど、珍しいなーと気になった。
(夕方のほうが、セールとかやってそうなのに)
女子力も主婦力もない私は、買い物どころか料理もしないし。
かと言って、ボーイッシュは程遠いけど。
運動も大して出来ないし。
逸れたけど、用事があれば言うだろうし。
自分でいると言ってた。
(けど、用事を忘れてる可能性あるかもだしな)
私の母ならありえるかもしれない。


