「...友達がそればっかり読んでいた事があって、
面白いのかなって思って」
本を見つめながら、どこか遠い目でそう話す。
哀愁を含んだ目で笑ってみせた先輩。
(気分が落ち込んでいるのかな)
今までのやり取りの中で、そんな様子は一切なかったから。
そう考えると同時に、これ以上は立ち入ってはいけないんだなって。
「そうなんですね。
他にはどんな本を読んだことがありますか?」
話題を変えようと、無理矢理にずらしてみる。
(気づいてしまうだろうか)
自分の感情はわかっても、表情は見えないだろう。
先輩はもう切り替わって話していて、切ない顔をしていたのに気づいていない。
うまい具合に反らせたはしたが、聞かなくてよかったのかな。
相談にのるとか、出会ったばっかりで痴が
ましいよね。
第一、先輩は気にしていないかもしれない。
(それに万が一、掘り返してしまったら?)
「更科さん、どうかした?」
「いいえ、なんでも。
先輩って何組なんですか?」
ぼんやりしてたのを慌てて誤魔化せば、少々悪意は感じるけど笑顔を見せた先輩。
気づくと本はそっちのけで、たくさん質問をしてる。
図書館に読書をする為に来てる筈の先輩を、
私のお喋りに巻き込んでしまっている形になってしまった。
なのに、笑ったり相槌をうったりして付き合ってくれている。
(本当はうざいって思ってるのに、優しいから言わないでくれているのかな)
話しているうちに楽しそうにしてくれているから、気は紛れているのかも。
悩みごとを話してほしいとは最初から思っていないけど、つまんなさそうな顔をされるのは嫌だから。
結果的に良かったと思う。


