目が覚めると見慣れた天井がぼんやりとしていた。

あれ……?私……

起き上がり辺りを見回したけれど、ここは私の部屋だ。夢だったんだろうか……

「カル……マ??」

ぼんやりしている頭が一気に冴える。

夢なわけない。まだ抱きしめられた感覚が残っているし、あの切なげな声も、愛しそうな目も全てが明確に浮かび上がってる。

一体彼は、何者だったんだろうか。

名前だって日本人にしては珍しい名前だ。それに、物語に出てきそうなあの家。本当に同じ国だったんだろうか。

『マリア……』

あった覚えがないのに。あの声で名前を呼ばれると、ひどく泣きたくなる。抱きしめられると振り払えらない。

夢で片付けられる話ではなかった。この世のものとは思えないくらい妖艶で美しい男性だったせいで、鮮明に覚えている。

「カルマ……さん」

そっと名前を呼ぶと、肌寒さを感じた。何故か開いている窓から風が入りこみ、カーテンがふわふわと揺れている。

現実とかけ離れた体験のせいで頭も少し痛い。

窓を閉めようとふと外を見て、ハッとした。

……この高さからどうやったら登れるの?どうやって人1人を抱えて、ここから抜け出せるの?? 人には無理じゃないだろうか。ブルッと寒気が私を襲う。

だけどあの人がヴァンパイアなら、血を飲まれてもおかしくなかったはず。いや、ヴァンパイアなんて信じられないけれど。

「……ダメ。もう寝よう。これも夢なのかも」

自分を納得させるため、そうはっきり口にして窓を閉めた後再びベッドの中へと入った。

まだ満月の明るさが部屋を少し明るくしている。

『……マリア……』

あの人が求めているのは私じゃないのに。
こんなにも切なくて、こんなにも悲しい。

満月との相乗効果なのか、またポロリと涙がこぼれ落ちた。

明日、瑠偉にどんな顔して会えばいいんだろう。うまく笑えるだろうか……

だって私の心はまだ、カルマさんのあの切なげな顔でいっぱいだ。

この感情が愛しいというものに、近いと思い知らされるくらいに。