怖いか? と質問されてもまだこの状況についていけてない方が勝っている。でも初めて会った時からそんな感情が湧いたことはないのが、正直なところ。本当ならもっと怖がったって良いと思うのだけど

「怖くない……よ」

もっと違う感情の方が私の中で渦巻いている。そんな私の言葉に、カルマさんは嬉しそうに笑った。

「やはり、マリアは生まれ変わってもマリアだな。」

「そうなんですか……」

ご先祖様は、一体どんな人だったんだろう。こんなに求めてきたこの人を置いて、何故ルイさんと結婚したの? わからないことばかりだ。

「……お前が望むならこのまま連れて帰ってやるぞ。どうだ?」

「え、の、望んでない! 望んでません!!」

「遠慮するな。ウトも合意の上なら怒らないだろうしな。」

「いや、話聞いてください!!」

強引に腰を引き寄せられて、本当にここから連れ去られるのではないかと思った途端、コンコンと資料室のドアが音を鳴らした。

『真理亜? いる?』

その声はよく聞き慣れたもの。間違いなく瑠偉だ。こんな密室で、抱きしめられているところを見られたら一貫の終わり。更に忘れそうになっていたけど、さっき、キ、キスまでしてしまった。なんて最低な彼女なんだ。瑠偉とは健全なお付き合いなのに。

「誰だ……あいつ。」

「も、もう良いですから……離してください。」

とりあえず入り口から死角ではあるが、小声で会話をして彼を押し退けた。だけど中々離してくれない。

『真理亜?』

「あ、も、もう終わったよ! 瑠偉! でるからそこで待ってて!!」

私の叫びにカルマさんの眉が歪む。

「……ルイ……あいつも……」

そしてどこか不機嫌そうにそう呟いた。心なしか、私を引き寄せている手が強くなる。そしてなんだか苦しそうだ。

「あの……カルマさん? 離してください……」

とても切なげに、とても悲しそうに、私の頬に優しく触れる彼。思わず固まってしまったじゃないか。

「……もう渡さない。誰にも……」

そしてそれだけ言うと先程とは違い冷たいキスを落として、私の唇をなぞる。

「……またな……」

泣きそうな声で呟かれた言葉は、離れたくないと縋っているようで……私は思わず、引き止めそうになった。だけどそれは痺れを切らした瑠偉が、扉を開けたことにより静止される。

「真理亜……?」

「……あ、はい! 待って!!」

瑠偉に気を取られたその時、フワリと風が吹いて、私を包む温もりが消えた。

「……カルマ……さん?」

目の前から消えてしまった彼に、寂しい気持ちを覚えたけれど

「何してるの?」

瑠偉が私を見つけて、首を傾げたことでその気持ちを振り払った。

「ううん。なんでもないよ。最後のやり残した資料が出てきちゃった。場所わからないな。」

「手伝うよ。一緒にやろう。」

人じゃないと言う危ない男の人。強引なくせに、優しいと感じるあの手。どんな形であってもまた会いたいと思ってしまった自分に、少し嫌悪感を抱いた。私には瑠偉がいるのに、良くないよね……。

「ありがとう……瑠偉」

唇に残った感触だけが貴方がいた証。書物には、ひどいヴァンパイアがいたと書かれているらしいけど、彼がそのヴァンパイアなら私はそうは思わない。

もう一度きっちりと、書物を読み直してみようかな……