「卵……卵、っと」



放課後、私は母に言われた通り近所のスーパーに来ていた。



はぁ。

私も紗千とカラオケしたかったなぁ。

買い物なんてさっさと終わらせて、急いでカラオケボックスまで行けば間に合うかな?



早歩きで店内を物色していると、精肉コーナーで見覚えのある人物が目に入った。



「ん?もしかして…次咲くん?」



もしかして、ってか間違いないか。

あんな風変わりなマッシュルームヘアーだなんて、他にはいないもんな。



まじまじと肉を見ているけど、次咲くんも買い物を頼まれたのかな?

そんなことより、数日ぶりに見る横顔は……なんだか少しやつれたように思えた。



話しかけようかな。

なんて、話題もないし世間話をする仲でもないし。



それよりも卵だ、卵。

カラオケボックスだ、カラオケボックス。

速やかにその場を離れようと背を向けた時だった。



「あ……奏ちゃん」



次咲くんの声が聞こえてきた。