「ぎゃはははは!テメェひょろひょろ歩いてんじゃねーよっ」

「このモヤシ野郎が!」

「さっさと歩けよ、バーカ!」



口々に次咲くんを罵る声が聞こえても、まるで聞こえていないふりをした。



かわいそうだとは思う。

次咲くんを助けてあげたいとも思う。



でも、校内でも名高い不良達に楯突く勇気なんて私にはない。

だからごめん…何もできない。



だって私に矛先が変わるかもしれないんだもん。

怖い。

それはもう、想像しただけで身震いしてしまうくらい。



今の幸せだけは、絶対に壊したくない。

卒業まであと一年。

平凡にスクールライフを送りたいんだもん。



それに報復を恐れて、彼を助けることが出来ないのは私だけじゃないはず。

きっと隣にいる紗千だってそうだよね?



紗千だけじゃなくて、クラスメート達も。

誰も彼を救おうとはしないんだから、そうに違いない。



「そんな……僕には持てないよ」



彼の涙が入り交ざった蚊の鳴くような声にも顔を背けた。