「チッ。つまんねーの」



アーラは低い舌打ちをすると、黒い翼を大きく広げた。



「きゃっ……!」



翼を広げたことで起きた風と舞い上がった羽根に驚き、咄嗟に目を覆う。



「あれ?アーラ……?」



そして恐る恐る目を開けた時にはもう、そこに彼の姿はなかった。



足元には無数の黒い羽根と、開け放たれた窓から顔を覗かせると……

遥か上空で翼をはためかせる、一羽の黒い鳥が目に入った。



「……はぁ」



アーラはもう目前からいなくなったっていうのに、胸の鼓動が収まらない。



何度も重ね合わされた唇の感覚。

首筋や胸元を這う舌の感覚。



触れられた箇所がマグマのように熱くて……顔の火照りだってまだ冷めない。



ずるずると、無数に散らばる羽根の上に座りこんだ。



だって初めてなんだもん。

アーラはかなり手慣れていたようだけど……私にとってあれは、

ファーストキスなんだもん。