しっかり握られた手と、こちらを見下ろす優しい瞳を見比べて

私は二の句も上げられずに素直に頷くしかなかった。



「ありがとう…」




そういえば、と



私は周りの景色を見てふと思い出した。



隼人くんはいつもこの辺りの路地の隙間で

友達と座り込んで話してたな。


ちょうど目に留まった焼き鳥屋さんのすぐそば。


そうそう、あの影になってる道の脇によく数人の仲間たちと一緒にいて


あんまり進んで話してはいなかったけど、それでも楽しそうに話に耳を傾けていた。



私はそんな彼をずっと遠くから見ていて

見ているだけで、


でも中華屋さんで話したあの時以来、ずっともう一度話したいって思ってて…。



私は無意識に足を止めていた。


「…? どうした」


繋いだ手が遅れたのを感じたのか、隼人くんは同じように足を止めた。


「隼人くん、あそこ行ってみてもいい?」


「あそこって…あの路地?」


「そう、いつも隼人くんたちがいた場所」


「いいけど…」


隼人くんは「なんでそんなとこに?」と不思議そうにする。


その問うような視線にはあえて答えずに、手を繋いだまま狭い路地の隙間へ歩いた。