コーヒーの香りが部屋一面に広がっていて、その中にマドレーヌの甘い匂いも混じっている。
「あら、真子。紅茶でも飲む?」
お母さんがニコッと笑ってそう聞いてきたので私はゆっくり頷いた。
お兄ちゃんはコーヒーを片手にもう既にマドレーヌを食べてるし……
……電話聞かれてないよね。
少しだけビクビクしながら、席に着き、母の作ったおやつを口へ。
「…んっ。美味しいっ!!」
「ふふ。そうでしょ。今日のはいつもよりも上手くできた気がしてたの。」
ご機嫌に紅茶を入れてくれるお母さんに微笑んで、私はそれをパクパクと食べる
そうだ……大和さんに作って持って行くのはどうだろう……喜んでくれるかな……
ふとそんなことを考えた瞬間だった。
「さっきの電話…彼氏?」
「っ!!?」
お兄ちゃんがなんの前触れもなく質問してきた内容に、私は喉を詰まらせる。
「ま、真子っ!お茶!お茶飲んでっ!!」
慌ててお母さんが差し出したコップを受け取って、急いで流し込んだ。
「か、彼氏なんかじゃないっ!!!」
お兄ちゃんってば、やっぱり電話の内容もきいてたのっ!?
という焦りで否定の言葉を強く叫んでしまう。
「…そうか。真子はあんまり男と電話するイメージなかったから彼氏ができたのかと思ったんだけど。」
「ボーイフレンド?パパが泣いちゃうわね」
兄と母がそんなことを言うので、ちぎれてしまうんじゃないかという勢いで首を振った。
「友達っ!!!」
力強く叫ぶと
わかったから
なんてお兄ちゃんが笑う。
「まぁ、残念。でももし、彼氏ができたらママには紹介してね。真子」
「…あ、俺にも。親父には内緒にしとくから」
またからかって!
と言ったけれど、ここでまた壁にぶつかった。
……ヤクザの息子の大和さんが好きなの。
なんて言ったら2人はきっとひっくり返るよね……
友達になったってだけでも、反対されそうなのに。
「そのお友達もまた連れていらっしゃい」
「う、うん」
家族にも、自分にも、大和さんにも嘘をついて
これからこの気持ちを背負っていけるのか。
すごく不安だ。

