『……忘れてくれ。』
「…気になります…」
『ぜってぇ言わねぇよ。馬鹿』
中途半端なまま遮られたせいでやっぱり気になる。
だけど大和さんがそう言ったからには、絶対に教えてはくれないんだろう。
「大和さん……あの…」
何か言ってまた会える約束を…と欲が出たところで
『大和…誰と電話してるん?』
物腰柔らかそうな京都弁が聞こえてきた。
女の……人だ。
すみれさんとは違う。
『はよ…うちのお父さんが待ってるから、大和も来てな。せっかく会えたのに』
『……わかってる……』
モヤっと心の中で、黒いものが渦巻く。
誰なんだろう……
『真子。悪いな……戻らねぇと』
「あ、いえ。大丈夫です。お忙しいところにわざわざごめんなさい……」
一体誰なんですか?
そんな図々しいこと聞けるわけない。
聞いたところで、私には関係ないことだもん。
必死にそう言い聞かせて、モヤモヤを止めようと頭を振った。
『……俺だったら今日、怪我させなかったのに。』
「…え」
『……何回でも受け止めてやるってことだ。また後で連絡する。いきなり悪かったな真子』
「いえ、あ、ま、待ってます」
私が話したのを最後に、電話はプツっと切れる。
女の人のこと気になったけれど最後に呟いた大和さんの言葉のせいで、モヤっとしたものが和らいだ気がした。
……私、図々くも嫉妬して
そして彼の言葉に喜んでる……
本当に感情のコントロールが下手で、ベッドに転がって枕で顔を隠す。
「あー……もう……どうしたら良いんだろう」
声が枕に吸い込まれたのを感じ取り
「……好きです……大和さん」
なんて言えない言葉を叫んだ。
「……何してんだ。真子」
するといきなり自分じゃない声が聞こえたので
ビクッと身体が震えて思わず飛び起きる。
「お、お、お兄ちゃん。」
「ノックしたんだけど…。電話が終わったと思って入ったら枕なんか顔に乗せて」
「え、あ、そ、そうだけど。っていうかずっとそこにいたの!?」
「いや、ずっとじゃないけどな。母さんがマドレーヌ食べるかって。降りて来たら?」
お兄ちゃんはそれだけいうと、マイペースに部屋から出て言った。
今日、非番なのかな…それとも夜勤?
なんにせよ心臓に悪すぎる……
いまだにバクバクしている胸を押さえてベッドから降り、リビングへとむかった。

