聞き間違えかと思ったけど、スーツの男性は大きな声でそのまま話し続けている。
「というかまた電車で帰ってきたんですか?言うてくれたら迎えに行くのに。」
「そんな車で迎えに来られたら迷惑なんだよ。周りの奴らがビビるだろ」
「そんなんビビらしといたらええんです!!若は将来、この天龍組を支えていく跡取り息子。そんな男が電車で帰ってくるなんて……俺は耐えられませんっ!!」
「うるせぇ……」
優しい彼の方は良く聞き取れないけれど、オールバックの男の人の声は全部聞こえていた。亜紀ちゃんがゴクリと息を飲んで小さな声で呟く。
「真子……私、嫌な予感がする……」
うん。私も少し胸騒ぎがしてるよ。
「でかい図体で泣くな。」
「若が冷たいから悪いんですよ~」
だってあの2人、何か言いながらもこのお屋敷の中に迷いなく入っていった。
「どうする?通り過ぎるふりして覗いてみる?」
「う、うん。」
なに食わぬ顔でスタスタ歩きお屋敷の入り口をみると大きな看板
”天龍組”と書かれている。
「真子……悪いことは言わないから……諦めなさい。これじゃあまるでリアルロミオとジュリエットよ」
亜紀ちゃんがポツリと呟いたあと、強面の人たちが一斉に彼に頭を下げたのが見えた。
「「おかえりなさいませ!! 若!!!」」
予想が確信へ。
私は警察官の娘
彼はヤクザの息子。
私の恋は、早速大きな壁にぶつかったのだった。