「……忘れてたって……俺はドキドキして寝れなかったのに……」


ブツブツと何かつぶやく佐山くんに、どう謝罪すればいいのか悩んでいると



「仕方ないわよ。佐山。真子は脳みそに新しいことを詰め込むと、古いことは忘れるから」


なんて亜紀ちゃんのフォローが入った。



……言い回しは少し納得できないけど、その通り過ぎてなにも言えません。


「ご、ごめんね。佐山くん。私、テストでいっぱいいっぱいで……馬鹿でごめんなさい。」



いつものように罵られる覚悟でそう言うと、彼はブンブンと首を振って珍しく笑う。



「いいって…今日、クレープは行ってくれるんだろう?」


「もちろん。なんの予定もないしっ!」


この返事で更に佐山くんの笑顔は輝いた。



クレープの力ってこんなに凄いんだ。感心しちゃう……



3人で教室をでて、亜紀ちゃんとはここでお別れ。どうやら職員室に用事があるらしい



「それじゃあ気を付けてね。転ぶんじゃないわよ。真子」


「はーい」



恒例の心配と注意を受けて、私と佐山くんは再び歩き出した。



「て、テストできた?」


「…うん。私、教えてもらえたから今回はわりとできたよ。」


「そ、そうなんだ。ふーん」



ペタペタと歩く音だけが響く。
彼と2人で出掛けるなんて、もちろん初めてだし普段意地悪されている分なにを話せばいいのかわからない。




でも佐山くんってどうして私にだけ意地悪なんだろう……クラスでは割と人気者だしみんなに優しいのに……


記憶をたどって何かしてしまったことがあるかと探したけれど、身に覚えがなかった。


ジッと横顔を見つめると、それに気付いた彼はカッと顔を赤らめる。



「な、なななに?」


「え、いや、佐山くんとお出かけなんて不思議な感じだなぁって……楽しみだね」


「ば、ば、馬鹿じゃねぇの!! あんまり見るな!チビ!!」



顔を背けて、彼はまた気にしてることを大きく叫んだ。



「またチビって言った!」


「だって、チビはチビだろうがっ!」


「そ、そうだけどひどいっ!」




銀次さんも私のこと”チビ子”なんて呼ぶけど、それはあだ名みたいで慣れている。だけど佐山くんは、いつも叫びながら言うんだもん。しかもいきなり。




「……好きで小さいわけじゃないからっ!」



大和さんは絶対そんなこと言わないのにっ!


とついつい拗ねてそっぽ向けば


「…可愛い…」

彼はボソッと小さな声で何かをつぶやいた。



…きっとまた悪口だ……




下駄箱で靴を履き替えて、目的地まで歩くけれど私は彼から顔を背けたまま。




「さ、笹本ー?」



「……」


「笹本真子さ…ん?」


「……」


「え、お、怒ってんの?」



「怒ってますっ! チビっていうの禁止!」



無視していたけれど、なんだか悪い気がしてきてついに喋ってしまった。けどこれだけは言っておかなくちゃ。




牛乳を1日で2リットル飲みきってお腹を壊した人の気持ちなんて、背の高い佐山くんにはわからないだろう……




昔のことを思い出して余計に拗ねていると困ったような顔をした彼は、ぽりぽりと頭をかく



そして



「わ、悪かった…」



謝ってきた。




……え、佐山くんが謝ったの?いま