ペラペラとノートをめくる手が止まらない大和さんに、私はドキドキか治らず。


「性格が滲み出てる字だ。これで頭が悪いなんて傑作」


「そ、それは言わないでくださいっ!」


「…っは…んなに怒んなよ。ちゃんと教えてやるから。な?」



どうしてだろうか。


私をからかうのは佐山くんだってしているのに。


大和さんになら、からかわれても嬉しいと思うのは、どうしてなんだろうか。


好きって気持ちは、贔屓がとても強くなるのかな。




公言通り彼は、私のわからない部分を理解できるまで何度も何度も丁寧に教えてくれた。


「……あ、答えこれですか?」


「……ああ。じゃあその公式使ってそのままこの問題解いてみろ」


長くて綺麗な指が私の教科書をなぞる。
この感情の厄介なところはそれだけでドキッとしてしまうこと。


「あ、あ、で、できました!」


「……よし。合ってる」


なんとか集中して同じような問題を解いた。


最後の解答があってるところで休憩に入り、ジュースを飲む。



「お前……俺が想像する以上に馬鹿だな。」


そんな私を見て笑いながらはっきりとそう言ってきた大和さんに、私はガーンと口を開けた。


「……ぷっ…変な顔すんな」


「だ、だってぇ……」


大和さんに馬鹿って言われるなんてダメージが大きすぎる……いやでも一問に時間かけてるしそりゃ言われるよね……



「なぁ、多分1日じゃ終わらないと思うんだけど。明日も空いてるか?」


「へ?」


「…予定がないなら教えてやる。」



なにを言われているのかわからなくて、時間が止まったけれどすぐに理解すると、コクコクと何度も縦に揺れる首。



「も、も、ちろんです!あ、明日も教えてもらえるなんて幸せですっ!!」


「明日は、他の奴らも親父もみんないないからうちにこればいい」


「ほ、本当ですかっ!?」


ガタッと思わず立ち上がれば、クスクス笑いながら大和さんは”ああ”なんて返事をくれた。


「せ、先生!私頑張りますっ!」


「先生って…やめろ…」


「だ、だって…大和さん頭が良くて優しくて尊敬しかありません。先生より尊敬ですっ!」


「なんだそれ…センコーの立場は?」


「あ、ご、ごめんなさい。先生……」


面白そうに笑う大和さん。



ヤクザさんのイメージというやつがどんどんどんどん崩れていく。これじゃあ警察官の子供かわからないよ。




「……お前ってほんと小さなことですげぇ嬉しそうにするよな」



優しい笑みで私を見つめる彼に、ドクンと心臓が鷲掴みされる。


大和さんといれるだけで幸せなんだもの。


そんなこと決して口にしてはいけないけれど、少しだけそれが伝わればいいのに。なんて思った。



「……赤点とらないようにみっちり仕込んでやるから」


「はい!」



このあと、言った通り彼はわかりやすく、そしてスパルタに私の先生をしてくれのでした。