「あの…すみれさん?」
固まる彼女に声をかけると、ハッとしてすぐに笑顔に戻る。そして私の手にポンッと生徒手帳が置かれた。
「ごめんなさい。真子ちゃんの名字が同級生と同じだったから、色々思い出して」
「そうなんですね。まぁでも珍しい名字ではないですよね」
「そうねぇ。懐かしいわ……青春時代」
「もうだいぶ昔の話だろ」
「……大和。何か言った?」
「…………」
確かに顔は笑っているのに、なんだか怖いすみれさんから大和さんが目を背ける。いつもは見られない彼の姿がなんだか少しおかしくて、ついつい笑ってしまった。
「……真子ちゃん…」
「はい?」
「もしかしてなんだけどね…その」
彼女が何か言葉を発しようとした刹那
「真子ぉおおおおお!!いるのぉおおおお!?」
そんな声が窓の外から響く。
「……亜紀ちゃん?」
それは聞き慣れた親友によく似ていて、大和さんと窓の外を眺めるとやっぱり亜紀ちゃんが銀次さんの隣で叫んでいた。
…亜紀ちゃん…銀次さんに連れてきてもらったんだ!
「あ、亜紀ちゃん!」
「真子!?ってなにその服!?」
「え、あ、こ、これは色々あって……というか着替えて降りるから待っててね!!」
お迎えが来たことにより
「あ、す、すみれさん。本日はありがとうございました!楽しかったです」
としっかりお礼をした後、着替える場所はないかと聞く。
「いえ、私こそ。楽しかったわ…また行きましょうね」
「はい!」
このヒラヒラの服は恥ずかしかったけれど、すみれさんは素敵で憧れの女性だ。それに大和さんにも会えたし私は大満足。
大和さんにもお礼して、別室に案内してもらい着替えを済ませる。服はプレゼントすると言われて、正直どうしようかと迷ったけれど、せっかくのご好意なので受け取っておいた。
「亜紀ちゃん!お待たせ!」
そして迎えに来てくれた彼女の元へ。
「無事で良かった!真子!」
ぎゅうううと抱きしめられたあと、すぐにバっと離れると亜紀ちゃんは私の身体を真剣に見てくる。
「?」
「あの服着せられた以外はなんにもなかったの?大丈夫?」
「え、だ、大丈夫だよ」
「良かった…」
心底ホッとしたような顔を見せた彼女は、私の背後に視線をやった。不思議に思っているとどうやら大和さんが、わざわざ出てきてくれたみたい。
「……悪かったな。うちの姉貴が」
「ほんとに!でもお姉さんより天龍さんとこのお付きなんとかしてください!!」
バッと一斉に視線が銀次さんに。
「……デートするまでここに連れてきてくれなかったし、解放してくれないし、大変だったんだからっ!!」
「そんなん言わんといてぇな亜紀。めっちゃ楽しかったなぁ……ツンデレもかわええし」
「デレてないわ!!!」
……亜紀ちゃん…… デートに付き合わされてたんだ。