逃げられるわけもなく、車はあっさりと大きな屋敷の前で止まる。ご機嫌なすみれさんは、鼻歌を歌いながら楽しそうに駐車していた。
「や、やっぱり私、着替えを!!」
「ふふ……大丈夫。大和は部屋にいるから」
全くもって何が大丈夫なのかわからないけれど、着替えさせて貰えるはずもなく、この格好と全くバランスが取れない屋敷の中へ。
「へ、あ、姐さん!?」
この前と違って強面の人が何人かいて、ギョッとした顔で見られては私は顔を歪めた。
窓に少し映る自分の姿に
小学生のお遊戯会みたいだ
と嘆く。
だって横にいるすみれさんは、艶っぽくて綺麗なんだもの。悲しすぎるよぉ……
そんな彼女にエスコートされて、大和さんの部屋の前
「大和!いるの? お土産があるわよ!」
とノックも無しに扉を開けた彼女のせいで、私は心の準備ができないまま彼の背中を瞳の中に捉えた。
「勝手に入ってくんなよ…ってか誰だそれ」
「いいじゃないの。ほら見て。可愛いでしょ?」
「……可愛いとかの問題じゃねぇだろ。さっさと……」
必死に顔を背けて入るけれど、明らかに視線を感じる。足音が聞こえてきて身体を硬直させると、彼の陰で視界が少し暗くなった
「……真子?」
そして彼の口からでた私の名前に、もう恥ずかしすぎて泣きそう。
「ち、ち、ちがいます…」
「いや、真子だろ」
バッとピンク色の帽子を取られて、大和さんとバッチリ目が合ってしまう。
何もかも終わった……心の中でそう感じた。
「…私がコーディネートしたのよ。可愛いでしょ?」
相変わらずご機嫌なすみれさんは、ふふんと自慢気にそう呟く。
「うう……」
おもわず顔を隠すと
「ぷっ…」
と吹き出す声が聞こえて私は口を開けた。
「い、い、いま笑いましたか!?」
「…ゴホンっ…いや笑ってねぇよ」
「わ、笑ってるじゃないですか!ひどいですよっ!大和さん!!!」
彼はちっとも悪くないのに、恥ずかしさのあまりポカポカと叩くと余計に笑い声が聞こえてくる。
「……大和が笑った……」
すみれさんが驚いたようにそう言ったけれど私はそれどころじゃなくて、未だにクククっと喉を鳴らす大和さんを照れ隠しに叩いている。
「落ち着け。真子」
「うう……」
「ほら、姉貴も。着替え返してやれ」
「あ、ああ!そうね。忘れてたわ!車から取ってくるわ」
頭の上に手を置かれた状態で動きを止められている間に、すみれさんが部屋から出て行って2人きり。
「ほら、笑って悪かった。そんなに怒んな」
「わ、私だってし、したくてしているわけじゃありません!」
「わかってる……姉貴に無理矢理着せられたんだろ?俺もされたことある……」
へ……と思わず間抜けな声が出た。
「……思い出したくもないけどな。割といじめられてた。俺は反応が悪りぃからすぐに銀次が標的になったけど。」
「そ、想像がつきます……」
「……にしても似合いすぎだな…お前」
大和さんは口元を手で隠して再びそういう。……やっぱり明らかに笑ってる……
「ま、また笑って」
「……可愛いな。お前」
不意打ちにきた笑顔と言葉に怒っていた気持ちが、遠くの山へ。
そのかわりボッと顔が赤くなったのがわかった。

