警察一家の娘恋した相手はヤクザの息子でした


ー放課後ー


相変わらず数学の先生は何を話してるかわからなかったけれど、今日の私はそんなことで落ち込んだりしない。


だって今から、彼に会いに行くんだもん。



よしっと気合を入れて、机の上に置いたカバンを取ろうとしたところ、おかしなことに気がついた。



あれ……カバンない……。


「真子!どうした?いくよ!」

「亜紀ちゃん……あ、ま、待って……カバンがなくて…」


私の言葉に亜紀ちゃんはため息をつくと、キッと1人の男の子を睨みつける。



「さーやーまーっっっつ!!!真子のカバンを返しなさい!!!」


その名前を聞いてビクッと肩が震えたのは、私が彼のことを苦手だから。



「笹本のかばん?ああ、これか。」



佐山 隼人(サヤマハヤト)くん。
いつも意地悪をしてくるクラスメイト。
多分私のことが嫌いなんだと思う。
だって今も私のかばんをヒラヒラと憎たらしく見せびらかしているもの。



「か、返して!」


奪おうと試みるも、高いところに上げられてしまえば届くはずもない。ピョンピョンと飛び跳ねれば、彼は心底おかしそうに笑っていた。



「ほんとチビだなぁ。跳ね方カエルみたい。チビカエルだな。」



……チビ……カエル……。
好きで小さいわけじゃないのに。
私がこの身長にどれだけコンプレックスを感じているのか、佐山くんにはわからないんだろう。



「……あんたさ…好きな子いじめるなんて小学生のすることよ。」


「な、な、な、何言ってんだ金本!!!好きじゃねぇよ!こんなチビ!!」



返してあげなさいと亜紀ちゃんが彼の手からかばんを奪い取ってくれた。私はというと、またチビと言った佐山くんへの苦手意識がこっそり上がる。



「……ありがとう……佐山くん」


だけど一応お礼はいっとこうと、静かにつぶやけば、彼は顔を背けた。


目も合わせたくないくらい嫌われてるのか……私、佐山くんに何もしてないんだけど……。


心の中でそう思ったけど、直接言えるはずもなくて


行くよ


と歩いた亜紀ちゃんの背中を追いかける。



「佐山くん…やっぱり怖い……」


「……そうね。ガキすぎるわね。真子が恋したこと知ったら泣くでしょうけど……」


「……笑い泣き??」


彼女の言葉にそう言って首を傾げたけど、そっとしとくのが一番と言われたのでもうこれ以上は聞かなかった。



学校を抜けて、彼の通ってるであろう高校へと向かう。


会えなくても仕方ないけど、できたら会いたい。


彼と同じ制服の人をちらほらと見かけるようになれば、いつの間にか目的の場所に到着していた。





「…んー帰ってたら……ってのを考えると聞いた方がいいかもね。」



亜紀ちゃんが聞きやすそうな人をキョロキョロ探している。私はというと本人を探すために瞬きも少なくして用心深く辺りを見回す。


昨日、彼が電車に乗ったのが毎日の日課なら、まだいると思う。頭が悪いくせにそんなことは、ちゃんと計算していた。



……あ


そして私はこの瞬間


今年一年の運を全て使い切ったと思った。



「亜紀ちゃん……いたよ……」


遠くの方から歩いてきたのは、確かに昨日の優しい人。


あの人だ。