掃除を終わらせて、待っていてくれた亜紀ちゃんの元に向かう。
「お疲れ様!帰ろうか」
「ありがとう。待たせてごめんね」
カバンを持って、佐山くんに声をかけようとすると
「……くそぉ…笹本……俺にしては頑張った方なのに」
ブツブツ何か呟いてた。
「佐山くん……またね」
「あ、お、おう!チビ!またな!」
このタイミングでまた”チビ”って言った……
仲良くなれたのかなと思えば、意地悪なこというしやっぱりわかんない人だ。
そんなことを思いながら亜紀ちゃんと2人で肩を並べて門まで歩いていく。
「……私、やっぱり嫌われてるのかな…佐山くんに。」
「嫌いな人とクレープ食べに行くわけないでしょ。というかあの”チビ”には小さくて可愛いという意味が込められてるの。馬鹿よね。あいつ」
「え、そ、そんな風には見えないけど……」
小さくて可愛いなんて顔していってない。
身長差もあるし、チビってバカにしてる時の顔怖いもん
大和さんとは、もっと身長差があるけど
『……お前バカだな』
言葉の中に何故か温かみがあって、言われても気にならない。もしかしたら惚れた弱みというやつかもしれないけど。
校門までくるとこの前のようにベンツが停まっていて、亜紀ちゃんの顔が一瞬で引きつった。
「亜紀!!助けてくれ!!」
案の定、それは私達が思い描いていた人物が現れる合図で
「私が助けてほしい」
と彼女は一歩下がった。
「あきぃいい!」
あわよくば抱きついてこようとする銀次さんを、亜紀ちゃんは軽やかに交わす。
しかし今日は、彼の後ろからコツコツとハイヒールの音が鳴り響いた。
え、と2人でその方向を見るとサングラスの女の人が歩いてきて、私の前で止まる。
…顔は分からないけど真っ赤な唇の下のホクロが色っぽい…あ、それに身長高い……
「銀、この子ね?」
発せられた声にどこか聞き覚えがあるような気がして、ぽかんと口を開けた。
サングラスを外すとニコリと笑顔。
「こんにちは。大和の彼女です」
「え、」
大和さんの……彼女さん?
まさかの事態に私はどう気持ちを作ったらいいかわからなくなって、口ごもると彼女はニコォっと意地悪な笑みを浮かべる。
「やだぁ!冗談よ!じょうだん!!」
「え…あ、あの」
「天龍すみれです。大和の姉よ。初めまして……真子ちゃん」
お姉さん……
ああ!だから聞いたことある声だったんだ
ホッとした自分が確かにいて、だけど大和さんに彼女がいてもいなくても私には関係ないじゃないかと切ない気持ちに襲われた。
「可愛い反応!!そして予想よりも小さい!!タイプだわ」
「た、タイプ?」
「ちょっと抱きしめさせて!!」
むぎゅうううといきなり抱きつかれたら、大きな胸に包まれて息苦しい。
「ま、真子!」
「あ、あかん。亜紀!! 命が惜しかったらやめとけ!そんで連絡先を」
「あんたは黙ってて!!」
後ろでそんなやり取りが聞こえて、すみれさんに解放されたかと思えばワシャワシャと撫でられる髪。
「よし!気に入った!ついてきてね。お買い物にいきましょ」
「え、へ!!?」
「銀ー車借りるわよ。デートでもゆっくりしてきなさい」
強制的に連れて行かれて、私はわけのわからないまま車に乗せられた。
「まって!真子!」
「亜紀……デートに…」
「誰があんたなんかと!!」
走り出した車。
最近私、この車に乗せられてばっかりだ。

