「悪りぃな……こんな狭いところに……」
いきなり視界が明るくなったので、眩しくてクローゼットから出る際によろける。それを大和さんがしっかりと支えてくれた。
「だ、大丈夫です。お姉さん…ご挨拶しなくても良かったですか??」
「……やめとけ。遊ばれるぞ」
「あ、遊ばれる!?」
一体どういう意味なんだろうと思ったけれど、身体を預けていたことを思い出して慌てて離れる。
「…ご、ごめんなさい。」
「いや、とにかくしばらくしたら帰るだろうから静かにな。銀次のやつにうまく相手するようにメッセを送っとく」
「は、はい。」
静かに……
と言われたので私は律儀に黙り込んだ。
指をスライドさせてスマホをいじる大和さんを見つめながら。
「よし。これであいつがなんとかすんだろ」
「…あ、あの…大和さん……お姉さんいることがわかって少し嬉しいです。」
そして彼がスマホを置いたのを確認した後、ぽつりとそう呟いてしまった。
「いきなりなんだ……お前は」
「あ、よ、よく考えたらまだあなたの事をよく知らないなって思ってて、ちなみに私には兄がいます。うちと逆の環境ですね」
私は一体何が言いたいんだろう。
大和さん困ってしまってるんじゃないだろうか。
本当に日本語が下手だと心から反省した。
「うちの姉貴は弁護士やってる。一回結婚したんだけど合わなくて離婚。あいつ初恋こじらせてるって銀次が言ってた」
「あ、そ、そうなんですか?」
「お前の兄貴は?」
「あ、わ、私の兄はけ……」
”警察官”そう言いかけてすぐにやめる。
「結婚はしたことありません。彼女のこととかも全然知りませんが、優しくて素敵な兄です……」
また……ズルをしてしまった。
いままで素直に正直に生きてきたのに、大和さんにはやっぱり言えない。それが悪いことだとわかっていても。
「そうか……ってお互いの兄妹のこと知ってどうすんだって感じだな。」
でもやっぱりこの笑顔が見れなくなるのはやだ。
「そ、そうですね……」
どんなに卑怯者だと後ろ指さされても、家族を裏切ることになっても……それでもいいと思ってしまう自分が少し怖くて。
「……真子は甘いものが好きで小さくて、面倒見のいい友達がいて、優しい兄貴がいるんだな。おまけにどんクセェ」
「ど、どんくさいは余計ですっ!」
「……本当のことだろ?」
だけどクスクス笑う大和さんに見惚れるせいで
すぐにその怖さを忘れてしまう。
まるで、麻薬みたいでとめられない。

