しばらく待っていると、すごい勢いで階段を駆け上がる音がしてガチャっ!と扉が開いた。



「真子!隠れろ」


「え、え!?」


「ほらこっちだ……こんなタイミングでややこしいのが帰ってきやがった」


一体誰だと考える前に、綺麗に整頓されたクローゼットに隠れさせられて真っ暗闇の中縮こまる。


するとまた階段を上がる音が聞こえて


「どうして逃げんの?大和」


と女性の声が響いた。



「……うるせぇ。銀次ならいまいねぇから下で大人しくしてろ。」


「あら、久しぶりにあったお姉様に随分冷たいじゃない。」



大和さんの……お姉さん??


……うそ…お姉さんがいたんだ。


1つ彼のことを知れて嬉しくなった私は、お馬鹿かもしれない。



「冷たくねぇだろ。別に」


「……それにしても……ふーん。大和随分雰囲気が変わったじゃない」


「は?」


「恋でもしてるの?」


彼のお姉さんがした質問に、私は思わず固まる。

ズキッと少し痛む胸。


そうか……私、大和さんに好きな人がいるかもなんて考えたことなかったかもしれない。


ど、どうしよう……



お姉さんのたった一言でひどい胸騒ぎ


「帰ってきていきなりわけわかんねえ女だな」


「あら。睨むなんて怖いわね。」


2人の会話を聞いているけれど、私は何故隠れているのかわからなくなってきた。大和さんのお姉さんだったら挨拶した方が良かったんじゃないかとか、でも彼は嫌がってるし大人しくしてた方がとか。余計なことまで考え出す。



するとまたしても足音が響いて


「帰りましたよ…若って…え!?あ、姐、あ、姐さん」


ひどく慌てた様子の銀次さんの声。


「あら銀次。あんた私の電話無視するなんていい度胸じゃない。」


「ち、ちが…!無視したわけではないんです!お、俺はただ」


「随分偉くなったもんだねぇ……あんた」


「あ、姐さん!い、痛い!!あ、足踏んでる!!」



真っ暗な中で音だけ拾うと、色んな想像が繰り広げられてパニックになってくる。お姉さんがどんな人かみたいのにそれは難しそう。


ただひたすら小さくなっていたら女性がいきなり



「ねぇ、銀次。大和恋人でもできたんじゃない。」



と銀次さんに質問したのだ。




は?


思わずぱちくりと瞬きしてしまったじゃないから。




「え、こ、恋人じゃなくて、友達のことやろ?」


「友達ぃ??」


「…なんかちっこいの。」


この扉の向こうがどんな状況なのかわからないけれど、友達というのは私のことだろうかと考えてみる




「詳しくいいかしら。銀次」


「え、で、でも、俺は」


「その話はいまからたっぷりきこうかしらね。」


「あ、姐さん! か、顔!怖すぎ!!」



そんな銀次さんの言葉を最後に、階段の降りる音がしてシーンと静まり返った。



やっと……ドアが開いた。