「おい銀次。なんか甘いもん買ってきてやれ」

靴を揃えていると大和さんがそんなことを言ったので、私は慌てて


「お、お構いなく」


とブンブン手を振った。


「え、いや、若、俺チビ子に話が…」

「……金なら渡すから。ほら」

「……いや、でも」


「客だぞ。こいつ」


いいです。いいです。
と言っているにもかかわらず2人の間で話が進んでいき、ついに銀次さんが納得いかないような顔で靴を履いて出て行ってしまった。




「あ、あの、良かったんでしょうか」


「気にすんな。ほらついてこい」


本来は銀次さんと話をする予定だったというのに、私は何故か大和さんに促されて、その上いつの間にか。



カチャ


「……入って寛いでろ」


彼の部屋に。



一体どうなってこうなってしまったんだろうっ


思わず顔が赤くなりそうなのを必死に隠すように俯いた。


「わ、私男の人の部屋に入るのは初めてで、き、緊張します……っ」


目が回りそうなほどの緊張に思わず素直にそう言ったら

「とって食ったりしねぇから。」


なんて笑われてしまう。



そりゃ大和さんが私を食べないことくらい常識で考えたらわかるけど……それでも緊張するなという方が無理。



「……真子」

「は、はい!」

「銀次のやつに言われたとは言え、嫌なら嫌って言っていいからな。一応今日はいねぇけど、あいつ含めて強面のやつらもウロウロしてる。こんな家来たくないだろ?」


彼が言った言葉に私は、思わずブンブンと首を振った。


「わ、私……ここにきた時、大和さんに会えるっていう気持ちの方が強くて……あの来れてお会いできて本当に嬉しいです。さっきも言ったかもしれませんが。」


もう自分で何を話してるのかわからなくなってきたよ。


だけど私が話し終わった後に、大和さんが嬉しそうに微笑んで

そうか

と呟いたことで、また一気に心臓が跳ねる。



「俺も……らしくねぇことにお前に会えて嬉しいのかもな。」


なんて破壊力のあるセリフなんだろう。


私は今この瞬間、空も飛べる気がした。



「……あ、お、お友達に会えたら心弾みますもんね」


「そういうもんなのか?」


「あ、は、はい。」


「……俺はもっとよくわかんねぇというか」



よくわからない

という彼の感情に、どういうことだろうと悩んだけれど


いきなり鳴ったインターホンにその雰囲気は壊された。



「……ちょっと見てくる」


「あ、は、はい。」


大和さんは立ち上がると私を置いて下へと降りていく。1人になって少しだけ抜ける気。


……ああいろんな意味でお腹いっぱいだよ。