極度の緊張のまま、銀次さんに促されて車から降りる。大きなお屋敷だ……なんだかピリッとした雰囲気に包まれてるような気もする。


ゴクリと息を飲んで恐る恐る銀次さんの背中を追いかけた。



ガラガラ

と引き戸が開いて、古風な玄関にまた緊張が走る。



「客間に案内するさかい待ってな。若に帰ってきた挨拶だけしてくるわ」


「は、は、はい。」


いきなりやってきて迷惑じゃないんだろうか。
私は嬉しいかもしれないけど大和さんは?


そう思っていたら奥の方で声が響いた。


『若!今帰りました!!』

『……は?…なんだその格好。』


『いや、聞いてくださいよ……亜紀のやつに告白したのに全然話聞いてもらえんと泣く泣く帰ってきたんですわ。』



うわぁ…大和さんの声だ。


ここは彼の家で、居て当たり前の空間なのにそんな的外れな感動をする。


『……真子にも会ったのか?』


『え、あ、ああもちろ…いたっ!なんで蹴るんですか!』


自分の名前が出たことにビクッと肩が揺れた。すると足音が聞こえてきて大和さんの姿が現れる。



「……あ、」


「え……」


お互いの姿を確認して、目線が交わったまま時間が止まった。


「わ、若!蹴るだけ蹴って消えるてどういうことですか!?」


「……真子……お前どうしてここに……」


銀次さんの言葉を無視して、呆然とそう呟いた大和さんに私は慌てて説明。



「あ、え、えっといや…銀次さんが亜紀ちゃんのことを知りたいってそれで……あのお邪魔します……」


といってもうまく言葉にできなかったのだけど。


心臓の音がうるさすぎるし、いざこんな形で会うと何を話していいかもわからない。


ど、どうしよう……


「あ、チビ子靴脱いであがりや。ゆっくり話でもしよ」


「……おい。お前が連れてきたのか?銀」


鋭い口調に銀次さんが困ったように固まる



「え、あ、は、はい。っていうかなんでそんなに怒ってるん?若……」


「……別に怒ってねぇよ」


「いや、お、怒ってるやん!もしかして勝手にチビ子に会いに行ったし怒ってんの!?俺は亜紀一筋でそ、それでって!痛いっ!若!!」



蹴られる銀次さんを見て、私は少し不安になった。



もしかして来てはいけなかったのかな……
浮かれすぎてたかも。


「……あ、あの…私」


「この馬鹿が勝手に悪かった。と言いたいところだが、お前もこんな危ない男に易々と付いていくな。あぶねぇだろ」



……怒られた。


銀次さんは、え!?ひどい!なんて叫んでたけど、確かにまだ会って間もない彼に簡単についていったのは私の落ち度だ。



「ご、ごめんなさい……」


「あ、いや…怒ったわけじゃねぇ。ただお前割と抜けてるし心配で…」


”心配”その2文字が聞こえたおかげで、悲しい気持ちが和らいでいく。大和さん…やっぱり優しい…



「あ、で、でも、こうして会えたので嬉しいです。」


素直にそう言うと、彼は


「…お前がいいなら…上がってけ。」

と微笑んでくれた。




ああ……どうしよう。

注意されたのに、付いてきて良かったなんて思う現金な自分がいる。



本来の目的なんて既に頭から無くなっていて、私は靴を脱いで大和さんのお宅に入れてもらった。