恋というものは落ちてしまえば厄介なもので、私は名前も知らない彼のことが頭から離れなくなった。
家族で食事中も、帰り道も、お風呂中も、寝る時も。私の頭の中はずっと彼のことばかり。
そして1日経った、いまこの瞬間も彼の笑顔が私の頭の中で輝いている。
「真子を1日こんな風にするなんて……そんなに素敵な人だったの??」
学校にて真っ白なノートを前にポーッとする私に、亜紀ちゃんが話しかけてきた。
昨日、胸のドキドキが止まらなさすぎて思わず彼女に電話し
私、恋に落ちた!
と突然の告白をしたのだ。
……転びそうなのを助けてくれた上、悪い人達を注意してくれた。とっても正義感溢れる素敵な人だったから、もしかしたら警察官の息子さんかも。なんてそんな運命的な繋がりがあればと思ったけど、とりあえずいまはただ、もう一度会いたい。それだけ。
「隣の高校の制服着てたよ……すごく格好良くて背が高くて。」
「なるほど。真子の親友としてはチェックしておかないとダメね。」
私に任せて。
とスマホを取り出した彼女は、慣れた手つきで指をスライドさせている。
「なにしてるの?」
「なにって、その高校にいる友達に情報収集。」
「あ、亜紀ちゃん!!」
なんて頭がいいんだろう。そうか……同じ学校の人がいるならまた会えるかもしれない。
ドキドキと期待と嬉しさで心臓が早くなる。
「どん人だったか特徴言える?」
「あ、あのね…身長が高くて、制服のネクタイはちゃんとしてなかった。あ、あとヤンキーだよ!!」
「はぁ!?ヤンキー!!?」
「うん。髪の毛に金色のメッシュが入ってたもん。だけど、いいヤンキー。絶対いいヤンキー!!」
「メッシュが入ってるってだけで、ヤンキーっていう真子の思考回路すごい。」
クスクス笑いながら、私が言ったことを文字にする彼女は、あっという間に文章を作り上げて送信ボタンを押していた。
「それにしても、真子のことだから見た目も真面目な優等生タイプの男の子だと思ってたのに、制服はちゃんと着てなくて、髪に金色のメッシュがはいった人だなんてね…」
「人は見かけによらないよ!それにとっても似合ってたもん」
「はいはい。」
恋した相手を、親友に悪く思って欲しくなくて思わず的外れなかばい方をしたけれど、亜紀ちゃんは気にして無かったようであっさり流した。
名前…わかればいいのに。
もう一度お話ししたい。
彼の笑顔の幻覚を見ながらポーッと空を眺める。すると時間があまりたたぬうちに彼女のスマホが震えた。
「あ、返事……」
「な、なんて!?」
ワクワクしながら待っていると、アプリを開いた亜紀ちゃんの顔が歪む。そして…どういう意味だ……なんてつぶやき出した。
「どうしたの……?」
「いや、関わらないほうがいいよって…それだけきた。」
「へ?」
それって質問の答えになってないんじゃ……
思っていた返事は、知ってるか、知らないか。
だけどこの言い方なら知ってるけど教えてくれないと言ったような感じ。
「いいから名前教えてって言ってみるね」
「うん」
亜紀ちゃんは再びその子にメッセを送ったけれど、ここから返事がくることは無かった。
「既読ついてる……あからさまなスルーだ」
「……どうしてだろうね」
「うじうじしても仕方ない。それなら行動に移すのみ!!」
ガタッと椅子を鳴らして彼女は立ち上がり、拳を握る。
行動に……うつすというのは……
と私が一歩遅れて考えていると亜紀ちゃんはニッと歯を見せてきた。
「隣の高校に直接いくよ!!」
思わずポカンとする……直接行くということは、今日すぐに会えるかもということ。
え、で、でもだけど……
「め、迷惑じゃないかな…」
「なに言ってんの。こんな可愛い子が尋ねてきたら誰だって嬉しいでしょ?」
「……亜紀ちゃんは確かに可愛いよ…で、でも」
「いや、いまのツッコミ待ちだから……真子に期待した私が馬鹿だった。」
やれやれといった雰囲気を見せた彼女に、私は更に目を丸くする。だけど、亜紀ちゃんは
「とにかく……会いたいなら行くしかない!」
と強く主張。
この行動力は見習うべきだと思う。
それにやっぱりもう一度会いたい。
「うん……行く!」
「よく言った!真子!!最後は嫌いな数学があるけど、放課後まで頑張って!」
不思議だ。いつもは頑張れない数学が、今は頑張れる気がする。
……あの人に会えるかもとおもっただけで。

