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「うう……なんでや…なんでや。亜紀」


あの後、薔薇の花束も受け取らずおまけに暴言を吐いた亜紀ちゃんは、逃げるように走り去っていった。


そして私はすっかり存在を忘れられていると思っていたので、ソッと帰ろうとしたところ銀次さんに捕まったのだ。



「…ひどいと思わへんか?スーツも新調して、薔薇の花束持ってきたのに、まさか連絡先の1つも教えてくれへんなんて…」


「は、はぁ…」


どうしよう。

割と目立つ場所だし、この状況は少し困るかもしれない。
だけど落ち込んでる銀次さんを放ったらかして

帰ります

なんて冷たいことも言えないよ。


「昨日な若にごっつい怖い顔して胸ぐら掴まれてな…

必要ないと思ったら自分で切り捨てるから余計なことすんじゃねぇ

って睨まれたんや。どうやら気に入られてるんやな。お前は」



羨ましい…。俺も亜紀に気に入って欲しい…。と銀次さんは大きくため息を吐いた。


気に入ってもらえてるという思わぬ情報に、胸がドキッとする。



「亜紀と仲良うなるために、お前と若のこと認める事にしたのにこの仕打ちや……」


「そ、そうなんですね……」


知らない間に認められてたという事についてはホッとしたけれど、亜紀ちゃんは困るだろうな


ズーンとしている彼を、なんとも言えない気持ちで見つめていると


「もうこの際お前でええわ!! ついてこい!」


といきなり叫ばれた。



「へ、へ!!?」


「亜紀の情報が欲しい。何が好きなんかとかどういうタイプが好みなんかとか……ちょっと一緒に来てくれ」



端から見たら誘拐に見えなくもないかも。


誰にも見られてません様に。特に先生には。
なんて思いながら、とりあえず少しでも亜紀ちゃんの負担が減ればと銀次さんについていく事にした。



うまくはぐらかせるかな……亜紀ちゃん嫌がるだろうし


なんて私は銀次さんの目的とかけ離れたことを考える。



丁寧に車のドアを開けてくれて、乗り込むと

また彼は大きくため息を吐いていた。



……銀次さんについて行ったなんて知られたら、絶対亜紀ちゃん怒る。


『真子は警戒心がなさすぎる!!』


……なんて。
でも、やっぱり彼は悪い人には見えないし。
ああでも…


乗ってからいろんな葛藤に襲われると、車が動き出した。


また料亭だろうか

と意識がそちらに向かったけれど、どうやら昨日の道とは違う。



ため息ばっかり吐く銀次さんの対応に困りながら、車の揺れに身を任せていると


一度だけ見たことある大きな屋敷についた。




………え


まさか………



天龍組と書かれた大きな看板



私はゴクリと息を飲む。



もしかしなくても……大和さんのお家??



何を期待しているのかドキドキドキドキとうるさいくらい音を立てる心臓



「……チビ子と2人でどっか行ったなんて耳に入ったら、若にも亜紀にも嫌われそうやからな。安心し。今は若と俺しかおらん。」




「は、はい。」



いきなり舞い降りた幸運に、気持ちの整理が追いつかない。



…ど、どうしよう……緊張しすぎて胸が痛い。