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結局あの後亜紀ちゃんの悩みが私に知らされることなくさよならをした。
そして次の日、いつも通りに戻った彼女と過ごす普通の学校生活。あえて昨日のことには触れない気遣いは、彼女なりの優しさだろう。
「あー今日もかったるい授業が終わったね……私バイトだわ。帰る?」
「いつもお疲れ様。一緒に帰ろう」
「うん」
2人で校舎を抜けて、一緒に校門へ向かうと亜紀ちゃんが顔を歪めた。
「真子。やばい。」
「え…」
「あいつまた来てるよ」
遠くの方に見えるのは、すらっとした男の人。……銀次さんだ。でも今日はこの前見たのと違う綺麗なスーツで立っている。
「…ど、どうしたんだろう」
私がそう言うと彼女はおもいついたように
「あれだ!天龍さんにこっぴどく怒られて、真子に謝罪しに来たのよ」
と推測した。
「…え、そ、そうかな。いいのに」
私がぽつりと呟いたと同じくらいに、私たちの姿を見つけた銀次さんはブンブンと大きく手を振る。まるで子供みたいだ。
「なんなのあいつ」
文句をいう亜紀ちゃんと近づいていくと、ニカッと爽やかな笑顔を向けてきた。
なんだか昨日と別人みたい……銀次さんだよね?
こちらがそう疑ってしまうくらい、今日は怖さを感じない。そんな彼に対して亜紀ちゃんは真顔。
「……よぉ。まっとったで」
えへへなんてデレデレした顔でそう言った後
「まずはチビ子。昨日は悪かったな。若に怒られたわ」
と続けた。
「あ、いえ、あの」
こちらこそごめんなさい。
と返そうと思ったのも束の間、私を完全に無視して銀次さんは亜紀ちゃんの前に立つ。
え
と2人で驚いたのは、バサリと音を立てて真っ赤な薔薇の花束が彼女の前に差し出されたからだ。
「単刀直入に言う。惚れた。付き合うてくれ」
時間が止まった気がした。
亜紀ちゃんの顔がみるみるうちに歪んでいくと
「はぁ?」
と冷たい口調で放たれる。
「いや、今時ヤクザに喧嘩売れる女子高生なんかお前くらいなもんや。完全に痺れた。好きや」
「な、あ、頭おかしいんじゃないの!!?」
「チビ子。この子彼氏おるんか?」
蚊帳の外だったはずなのにいきなり話をふられたので、条件反射で首を横に振るとニカッとまた嬉しそうな笑顔
「なら、大丈夫やな。」
「いや、大丈夫じゃないし!きもい!うざい!ばっかじゃないの!?」
「そんなこと言わんと。チビ子、お嬢ちゃん名前は?」
「……え、あ、亜紀ちゃん」
「ま、真子!!!」
ついつい銀次さんの勢いに負けて、ポロっと名前を出すと亜紀ちゃんが困ったような顔をした。
しまったと思った時にはすでに遅し、銀次さんは猫撫で声で
「亜紀〜俺の気持ちや。受け取ってくれ」
と薔薇の花束を近づける。
「無理!近づかないで!鬱陶しい!」
「その冷たい口調がまたたまらん。歳の差なんて関係無いで!! さぁ!亜紀!」
「な、名前を呼ぶな!!!」
「なら友達から始めよう」
「友達にもいらないわよ!!!」
2人のやり取りを見ながら、1つ思ってしまったことは亜紀ちゃんには決して言えない。
お似合いだと思う
なんて。
「幸せにする!! 子供は3人作ろう!」
「いや、近づかないで!!この変態!!!」
うん。口が裂けても言わないでおこう。