大和さんがそんな風に思っていてくれていたことに、またポロポロ涙が溢れ出す。すると見るに見かねた亜紀ちゃんが、電話口に唇を近付けた。
「あんたんとこのお付きが真子を泣かせたんです!!」
「…っあ、亜紀ちゃ…ちがっ…」
「すっごい怖い顔で、睨みつけて脅して、それでも真子は怯まず、貴方が嫌だと言わない限りは仲良くしていたいらしいです!! あの狂犬みたいな男、縛り付けといてください!!」
色々勘違いされちゃうよ……と思ったので、銀次さんの名誉のために弁解しようと思ったけど、涙のせいでうまく言葉にできない。
『真子……』
「ち、違います…銀次さんは…えっと」
『お前…いまどこにいんの?』
「え、ど、どこって…」
キョロキョロとし始めると何か察した亜紀ちゃんが
「〇〇駅近くの△通りとかいうところ」
と冷静につぶやいた。
『……ああ…料亭に近いところだな』
どうやらそれが彼にも聞こえたようで、何かシャランと音がしたかと思えば私にこう言う。
『そこから動くなよ』
「え…」
どうしてですか?なんで聞く前に電話を切られてしまい、画面がナビに戻った。
動くな……ってことは、もしかして来てくれる?
「天龍さんなんて?」
「……ここから動くなって…」
「……泣いてる真子が心配になったのかな。来るの?だとしたら見かけによらず優しい人ね」
「う、う、うん」
……確かに優しいというところは否定できない。
だけど、どんな顔して会えばいいんだろう。
いまの一瞬で目は腫れてないだろうか。
一気に違う方へ意識がとんだ私を見て、亜紀ちゃんが神妙な顔。
「……ねぇ…大和さんってさ……」
「え、なに?」
何か続きそうな雰囲気だったので待っていたのに、彼女はグッと言葉を飲み込んだ。
「………まさかね……そんなの色々まずいもの……」
一体なにを言おうとしたんだろう。
「…亜紀ちゃん?」
「あ、な、なんでもない。なんでもない。天龍さん何でくるんだろうね」
気にはなったけど、亜紀ちゃんが誤魔化したのでそれ以上は聞かなかった。大和さんのことで一体、何が引っかかったんだろう……少し気になるけどやめておこう。

