「……ちっ。あの男一発殴るくらいしてやればよかったかな」
帰り道、カバンをブンブン振り回して怒っている亜紀ちゃんは大きな声でそう叫んでいた。
「亜紀ちゃん……」
「ん?どうしたの?真子」
言いたい事は色々あった……私のためにヤクザにケンカを売るなんて、中々出来る事じゃない。
でも今はごめんなさいではないよね。
「ありがとう……」
おずおずとそんな事を言うと、ふっと優しい笑みを浮かべた彼女は、ポンポンと私の頭に手を乗せる。
「馬鹿ね……親友でしょ?」
本当に同い年とは思えない。
強くて、優しくて、いつも守ってくれる。そんな亜紀ちゃんは、心から私の自慢だ。
「……だけど真子。あの男は、まだ真子が警察官の娘だって知らないのよ。今でさえこれ…知られたら…一番近づけたくない存在なの。」
「うん…そうだよね。わかってる」
「のめり込めばのめり込むほど、辛いのはあんただよ。わかってるの??」
「うん……わかってるよ……」
彼女の言葉に返事をして、大和さんのことを考えた。
……もし彼がこの先、跡を継ぐのなら私は邪魔な存在で間違いない。……大和さん自身はどう思ってるんだろう……なんだか不安になってきた。
「銀次さんが、天龍さんを大切に思う気持ち私にはよくわかる。私だってあの立場ならそうしてたと思うし。」
「……亜紀ちゃんは大人だね…私は目の前の事ばっかりだ……」
「……もう一回聞くよ。またこういう事があっても耐えられる??」
頭の中で天秤をかけたとしても、私は辛い事を耐える方ばかり考える。もう少しだけ、もう少しだけ、と……欲深すぎるだろうか。
「うん……耐えられるよ……」
私のその一言を聞いて亜紀ちゃんは諦めたようにため息を1つ。
「わかった……もう何も言わない。」
「ごめんね……私の事考えてくれてるのに。ごめんなさい」
「そこまで大和さんを想う気持ちが強いって事でしょう。なら私が止めたって無駄だよ。」
やめておけば良かったと思う日が来るんだろうか
それでも……今はただ、大和さんと仲良くしたいという願望だけが私の中で強く残っていた。

