警察一家の娘恋した相手はヤクザの息子でした



「……銀次さんだっけ」


「な、なんや……反論は聞かんぞ」


「ううん。私も貴方に賛成だもの。」


え…と亜紀ちゃんの顔を見つめる。だけどすぐに仕方のないことだと思った。彼女は元々、私が大和さんと仲良くなるということにいい顔はしていない。




「な、なんや!話わかる女やな!」


「だって真子は……純粋だし優しいし、ヤクザの世界に無縁な家に生まれてるから…」


「そやそや。全く違うな! いや、まさかやわ。茶でも飲んで、ここのお菓子も食べ!一緒にそのチビ説得しよう 」


亜紀ちゃんの一言で、銀次さんの機嫌が良くなって2人は意気投合し始めた。やっぱり望んではいけないことなんだろうか。友達になるということも。



「………大体、若の顔に惚れたか知らんけど友達になりたいっておこがましいわ。あの人は一人息子やし、大切に厳しく跡取りとして育てられてきたからな。お前みたいな女に側におられると困るねん。わかるか?」


「それは…」


「ヤクザの息子にひるまへんかったんわ褒めたるけど、どうせ顔やろ?若かっこええもんなぁ……まぁ仕方ない。ほら、お嬢ちゃんも説得して!!」



確かに大和さんはかっこいい


だけど好きになったのはそんなところじゃない。
怖い顔してても、ぶっきら棒でも、困ってたら助けてくれるところ。
意地悪な微笑みもするけど、優しく笑った時の安心感


目に涙がたまってきた。だけど堪えてもう一度反論しようと思った刹那


バシャっ!!


という音がして、目の前の銀次さんの髪からポタポタと水滴がこぼれ落ちるのを見て唖然とする



「……真子と大和さんを近づけたくないってのは賛成だけど、真子の気持ちを踏みにじってもいいとは言ってない」



キッと鋭い目をした亜紀ちゃんの手には、空になったコップが握られていた。





「…ヤクザか何かか知らないけど、真子を泣かせるな」





……亜紀ちゃんは……いつもそうだ。
ダメなことはダメだと教えてくれるけれど
私が泣きそうになると必ず助けてくれる。


「…帰ろう。真子」

「ま、待て!話は終わってないやろ!」

「……確かに賛成だし、あんたの大切な若に私の大切な真子を近づけたくない。だけどそれは私のエゴよ。組のために仲良くしてほしくないってのもあんたのエゴでしょ……?決めるのは…真子と大和さんよ」


髪が少しだけ乱れた銀次さんにぴしゃりと言い放つと、涙がこぼれ落ちた私に笑いかけて立たせてくれた。



……亜紀ちゃん……



放心状態の銀次さんを横目に、和室から先に私を出す。そして彼女はクルッと再び彼を見た。



「……クリーニング代なら請求してくれて結構……もう2度と会いたかないから、大和さんにでも渡すわ。」


「あ、え、か、帰んのか…!?俺はそれでも」


まだ何か訴えかける銀次さんのネクタイをグイッと引っ張って、亜紀ちゃんは低い声で呟いた。



「……真子にまた何か言ったら、蹴り飛ばすわよ」




目を見開いた彼をパッと解放して


「さようなら。ヤクザのお兄さん」


なんて背中を向けて手を挙げる。






……亜紀ちゃん……かっこよすぎて声が出ないよ。
本当に私の救世主だ。