しばらく車が走って、連れてこられたのは高級そうな料亭。おもわずゴクリと2人で息を飲んだ。
「ここ、お世話になってる店や。個室やし、安心して話できるやろ」
古風な庭に、錦鯉が泳いでいる。
こんなところ来たことがない。
制服できても良かったのかな……
銀次さんは慣れた様子で、着物の女性に挨拶。まだお店の外には準備中と書かれていたのに容易く奥の部屋へと案内された。
「部屋を開けたら沢山ヤクザがいて、どこかに売り飛ばされたらどうする?」
「あ、亜紀ちゃん…こわいこと言わないで。」
銀次さんは確かにガラが悪い気がするけど、そんなことをするようには見えない。だけどそうを言われたら少しは影響されるもの。
内心ドキドキしながら彼の背中を追いかけた。
女性が開けてくれた部屋は畳の香りがする広い和室。高そうな壺と掛け軸があるのが印象的
「ごゆっくりどうぞ」
ぺこりと三つ指で頭を下げた女性は、スッと障子を閉めると足音もならさずに去っていく。あまりの高級感に、亜紀ちゃんと私はたじろいでいると銀次さんがどかっと座椅子に座って手を出した。
「ほら、お前らも座れ」
シッボッとライターに火がついて、慣れた手つきでタバコに。銀次さんは、煙を漂わせると私達が座るのを確認したのち、大きくため息をつく。
思わず固まる身体。
亜紀ちゃん……巻き込んじゃってごめんね…
「……早速やけど単刀直入に言うで」
「は、はい…」
「……若と仲良くするんはやめろ」
まさかの言葉に私は思わず目を見開いた。
大和さんと……仲良くするのをやめる?
「ど、どうしてですか?」
先ほどまで冗談めいた雰囲気を持っていた彼だけど、今は真面目な顔をしている。だからこれは本気の言葉だとすぐにわかった。
「…若は将来、組を背負わなあかん男や。お前みたいな女がちょこまかしてたら示しがつかんやろ」
タバコの灰が銀次さんの手によって灰皿に落とされる。
私は少し下を見てぎゅっと口を紡いだ。
「他の組になめられたらおしまいや。わかるやろ?」
ヤクザの世界のことなんて何1つわかるわけない。
私は正反対の世界で生きてきたから。
だけど大和さんの将来にとって、私はあまり良くない存在ということは伝わった。
まだ言ってはいないけど警察官の娘だもん
そんなのは当たり前だけど……それを無しにしても邪魔だってことかな。
「でも…」
「若に友達なんていらん。」
きっぱりと言い放たれて思わず言葉を飲み込む。
大和さんを学校で見たとき、とても寂しい人だなって思った。誰も寄せ付けないようにわざとこわい顔をしているような……だって本当の彼はとても良く笑ってくれるから。
「友達がいらないなんて…銀次さんが決めることじゃないと思います……」
一度飲み込んだはずの言葉が表へでてきた。
「…私は大和さんが嫌だと言わない限り、彼と仲良くしたいです……」
はっきりとそう自分の気持ちを伝える。真っ直ぐと銀次さんを、見ていると、大きなため息が彼から漏れた。そして次の瞬間、ダンッ!と大きな音がして机が揺れる。
「チビ子……」
「……はい」
「ええ加減にせぇよ。お前は若の将来の邪魔や」
まるで蛇に睨まれたカエル。
怖さで身体が動かなくなった。
邪魔……大和さんの……
下唇をキュッと噛んでスカートを握り締めたのは、泣いてしまいそうだったから。面と向かって言われると、やっぱり辛い。
嫌な空気が部屋に充満して、何か言わなきゃ……と考えていたら、先ほどまで黙っていた亜紀ちゃんが口を開いた。

