大袈裟にお腹を抱えて笑う3人に私は呆然としていた。


「小学生に注意されたのかと思った。可愛いー!!震えてんじゃん!」


「なっ!!」


「もしかして新手のナンパ??」


「よく見ると可愛い~!!」


「違います!皆さんの迷惑を考えて」


せっかく注意を続けていたのに、またしても電車の揺れ。そのせいでバランスを崩し、中途半端に踏ん張ったせいで前のめりに倒れた。


おかげで今は、目の前の相手の胸の中。



「うわっ!すげぇ大胆」


また面白そうな笑い声が響く。もう最悪だ…正義感をかざしたってこの身長のせいで全く締まりがない。おまけに笑われる始末。ギュッと力強く抱きしめられていて、今度は抵抗することに必死になった。


「は、離してください!」

「すげぇちっさい。この制服高校生だよね?包み込めるんだけど。」


「や、やだ……」


最悪の状況から抜け出すために、なんとかしようと頑張るも力で全く敵わない。泣きそうになりながら顔を上げると、窓に男の人が映った。



あ……


背中を向けている私が気付いたのだ。もちろんこの3人はとっくに気付いているはず。そのおかげか腕が緩んだので、離れるために後ろ向けに進んだところポフッとその男性に受け止められた。



「……お前らうるせぇんだよ。」


この声さっき聞いたばかりだ。
金色のメッシュの……


顔をチラ見すると、思った通りさっきの男性でものすごい形相で彼等を睨んでいる。


「な、なんだよ。お前」

「ここ優先座席だろ?? しかも電車内で通話しちゃいけねぇってこの文字もしかして読めないのか?」


「…っ!ひ、人の勝手だろ」

「なら……俺がここでお前らを殴っても……勝手なんだな?」



ひっ。と明らかに3人が怯んだ。
そして静かにスマホをしまうとブツブツ言いながら、別車両へ移っていく。


……一瞬だった…すごい。


「あ、あのありが」


お礼を言おうとしたのにまたしても彼は歩いて行ってしまっていて、いつの間にか止まった電車から降りていた。


いまお礼を言わなきゃ後悔する!!


「ま、待って!」

慌てて追いかけて私も電車から降りると


「なに?」


やっと振り向いてもらえた。


「あ、の、重ね重ねありがとうございました!!これで私を含め安心して電車に乗っていられます!!」



言いたいことを言えた!と喜んでいると
プシューという音がする。ハッとした時には、既に扉が閉まった後。そのままガタンゴトンと何事も無かったように電車は進んでしまった。



「わ、わ、私、ここ降りる駅じゃないのに!!」


絶望する私に眉をしかめた彼は、ため息をひとつこぼす。



「どこまでどんくせぇんだよ……」


「うう……ごめんなさい。でもお礼言えて良かったです!!!」


電車は言ってしまったけれど、お礼を言えたからまぁいっかと気持ちを切り替えた。すると彼は少しだけ驚いたような顔して、すぐに口端を上げる。



「律儀なやつ……」



……笑っ……た。



思わず見惚れてしまってその場から動けなくなった。



「……心配しなくても10分もたたねぇうちに、次の電車が来る。」


「あ、ありがとうございます。」


頭を下げると「ん」なんて一言だけ返ってきて、彼は再び私に背中を向ける。しかし何か思い出したのか、ピタリと動きを止めた。



「お前さ…」


「は、は、はい!」


「小さいくせに度胸あるな。」



また、笑った彼の顔に胸がドキンっと大きく音を立てる。



そう……私はこの日


人生初めて、恋に落ちた。