案の定亜紀ちゃんは腕を組むと、鋭い目線で銀次さんを睨みつけた。


「な、なんや!お嬢ちゃん!」

「真子は確かに小さいけど、あんたみたいにチャラチャラしたスーツ着てる男にけなされる理由なんてないわ。なんなの、どこのホスト?」

「ほ、ホスト!!?チャラチャラしてるってこれアルマーニやぞ!安物ちゃうで!」


「高かろうが安かろうがどうでもいいわよ。クレープ如きでいい大人がわーわーわーわーうるさい」


完全にスイッチが入ってしまった彼女は、呆れたように目の前の銀次さんにそう言いなった。


ジロジロと人に見られてる……


「あ、亜紀ちゃん…私はいいから。ね?」


「……そんなにあの”若”が心配なら、縄でもつけてれば?その方がこっちも安心よ」


「わ、若に縄やとっ!!?黙って聞いとったら誰にそんな口きいてんねん!目上のものには敬語使えってならわんかったんか?」


「私だって、年下を大切にする尊敬できる大人になら敬語つかうわよ。精神年齢が低そうで、誰にでも絡んでいくような痛い大人をどう敬まえばいいわけ?言ってみなさいよ」


「な、な、な、謝れ!!若を馬鹿にしたことを!」


「いや、私が馬鹿にしてるのはあんただし」



2人でギャーギャーと言い合いを始めてしまったので、私は間で縮こまってしまう。どうしよう…こんなの止められるわけないよ。


「若、若、若、なんなの?あんたホモ?」

「お前かてレズやろ!!」


お互いに一歩も譲らないせいで、険悪なムードが漂った。しかしハッとした銀次さんが胸を押さえて深呼吸を始める



「お、落ち着け俺。相手は女子高生や。用事があるのはチビ子……いちいち乗っかってたらあかん。」


……相変わらず独り言が大きい人だなぁ…



「と、とりあえず落ち着こか。な、お互い冷静になろ」


ニコッと引きつった笑いを見せた彼に、亜紀ちゃんは真顔。


「……女子高生とこんな言い合いしてたら警察呼ばれるわ……目立つんもまずい……。色々バツが悪いねん。チビ子…ちょっと付いてきてくれ」


「え、、あ、わ、私ですか…」


「目立ちたくないならそんな格好で来なければいいのに…」


ポツリと亜紀ちゃんが呟いたことで、また銀次さんの顔が引きつった。


どうやら完全に敵だと認識してしまった様。



「と、とにかく車乗ってくれ!悪いことはせんから…話聞するだけや」



確かにいま警察を呼ばれると、顔見知りの人も来てしまうかもしれない。そうなるとお父さんやお兄ちゃんに大和さんのことがバレて、友達どころじゃなくなるかも。




「いきます…」


意を決して了承すると、亜紀ちゃんが目を見開いて腕を引っ張ってきた。



「ば、馬鹿!こんな胡散臭い男について行っていいわけないでしょ!」

「で、でも…」


「心配やったら、お嬢ちゃんも来たらええ」


銀次さんが亜紀ちゃんに向かって言ったことに、


「え?」


と驚いた様子を彼女は見せる



「……冷静に考えたら、お嬢ちゃんにとってのこいつは俺でいう若やろ?気持ちはわからんくない。腹は立つけどな」



たしかに、銀次さんは大和さんの心配を。
亜紀ちゃんは私の心配をしている。
彼女も来てくれるなら、ありがたい話だ。



「……行く。真子のこと心配だから」


「…ん。ほな乗ってくれるか」


意外に紳士的に車のドアを開けてくれたので、2人でそれに乗り込んだ。


一体どこに連れて行かれるんだろう
少しだけ心配だ。