何か始まってしまうんじゃ……そんな風に思えるピリッとした空気が流れた。
亜紀ちゃんは笑顔なのに、大和さんと睨み合ってるみたい。
「…どうも」
素っ気なく彼が言葉を発したのが合図
笑顔から一転、キッと強い睨みを利かせた亜紀ちゃんは
「単刀直入に言っておきます。私の真子に変なことしないでくださいね」
と放った。
「変なことって?」
「見ての通り、男のおの字も知らない今時珍しい純粋な女の子なんです。変なことって言ったらわかりません?」
煽るような彼女の言葉に内心ハラハラ
変なことってなんだろう……
2人の間に見えない火花が散る。
亜紀ちゃんは、昔から私のことになると誰だろうと容赦ない。私が小学生の時クラスの男子にチビだといじられた時も、一番に駆けつけてその子を泣かせてた。
……過保護なところは確かにあるけれど、それでも亜紀ちゃんは私のことを思ってくれてるんだよね。
大和さんの反応を見ようと視線を動かすと、彼は面白そうに笑っている。
そして、ポンッと私の頭の上に大きな手が。
「…どうするかな。こいつ無防備だからな」
「…なっ!」
”無防備”また出た単語
一体どこがどう無防備なんだろう。
そんなことを考えてるうちに、今度は亜紀ちゃんに手を引かれて移動した。
「真子は小さい頃からこうなんです!いまに始まったことじゃないので、勘違いしないで!」
「あ、亜紀ちゃん…」
初対面だというのに、仲が悪くなってるのはどうしてだろう……
「この前、俺の前だけ無防備でいるって約束したばっかだけどな。そうだろ?真子」
「え、は、はい!」
「ばか!真子!どんな奴の前でもガードは固く!この人だけ、特別扱いしちゃダメよ!」
「あ、は、はい」
勢いでどっちにも返事してしまった……。
どうしてこんな戦いがはじまったの…
「…なるほどな。あれだけ鈍臭いのにお前に変な虫が付いてない理由がわかった」
「え…」
「いいボディガードだが俺の前では無意味だな。」
「だ、誰がボディガードよ!!」
挑発的な大和さんに、亜紀ちゃんがイライラしてるのがわかる。板挟みの私は、いつも通りオロオロしているだけ。
「真子!」
「は、はい」
「男は狼よ!わかった??警戒すること!!さもなくば子供ができるわよ」
「え!?そうなの!?」
「……なんてこと吹き込んでんだ。お前。安心しろ真子…ガキができるなんて失敗はしねぇ」
「…なら安心です!」
「安心するなっ!!」
最早もう、どちらもあー言えばこー言うといったやつで、どう返していいかわからなくなってきた。
「あ、亜紀ちゃん…私大丈夫だから。ほらバイト遅れちゃうよ?」
「バイトなんてサボりたい!心配すぎて働けないわよ!」
「ほ、ほんとに大丈夫だから。ね?」
とりあえず興奮気味の彼女をなだめると、諦めたようなため息。そして大和さんをもう一度キッと睨みつけると
「何かあったら電話しなさいよ!」
と吐き捨てて歩いて行った。
絶対だからね!
と最後まで叫んで。
本当に心配症だ…亜紀ちゃんは…

