2人で一緒に学校をでて、門の前で別れの挨拶をする。


「ほんとに気をつけてね。何かあったら連絡すること」

「はーい。わかりました!またね!亜紀ちゃん」


ブンブンと手を振って、別れたというのに同い年のお母さんは私が見えなくなるまでこちらを見てくれていた。

本当に過保護だ……大丈夫なのに。


だけど、彼女が心配する理由も少しわかる。この前も用事で別の場所へ行かなければならなかったのだけど、思い切り道を間違えた上、切符も買い間違え、更に気づかぬまま駅を降りと普通なら30分で行ける所に1時間半もかかったのだ。


……自分でも鈍臭いとわかっている。でも同じ過ちは繰り返さない。


その決意通り無事に駅について、駅員さんに確認した上で切符を買った。


……よし。これで大丈夫だ。

そう思って階段を降り、どちら側に乗るのかと上を向いて歩いていたところ


カツンと点字ブロックに足が引っかかって、前のめりに転びそうになった。




やってしまった!!


痛みを覚悟に目を閉じると、何かに支えられ、転ばぬまま。



「え……」


と目を開いた途端、映ったのは誰かの身体。



「危なっかしい女……」


そして低い声が響いて、思わず顔を上げた。


日に照らされキラリと光る金色のメッシュ。


や、ヤンキーというやつかな。

そのままギロリと睨まれてる。

だけど……かっこいい。テレビに出てる人みたい。



「なんだ?」


「あ、い、いえ、ご、ごめんなさい。」


謝罪しお礼する前に、クルッと背中を向けて彼は歩いていった。



あ…と思った時にはもう既に遅し。お礼を言いそびれてしまったと、突っ立ってしまう。


身長高い……まさか受け止めてもらえるとは思ってなかったなぁ。派手な髪型をしていらっしゃるけど、優しい人なんだ。


それにあれは隣の制服だよね……ちゃんとお礼したいな。


そう思って追いかけようとしたけれど、このタイミングで電車が来てしまい、彼はそのまま乗り込んでいく。


「あ…」


私も同じ電車なので、慌てて乗り込んだ。そのまま彼に近づこうと思ったけれど、3人組のこれまた髪の明るい男の人たちがドンッとぶつかってきて思わずよろける。



その人たちはそのまま謝罪もなしに、優先座席にどかっと座り、スマホを出して騒ぎ始めた。



……なんてひどいマナー違反なの。


私の気はすっかりそちらにとられてしまい、お礼を言うことを一旦頭の中から消し去る。



大きな声で友達か何かに電話したり、大音量での音楽。これはお父さんがみたら必ず注意してるよね。



グッと意を決して、動き始めた電車の揺れに耐えながら彼等の前に立った。




「あの!」


声をかけた瞬間、鋭く睨まれ、少しだけ怯む。だけど、必死に言葉を繋いだ。


「こ、ここは優先座席ですっ!それに電車内での通話はマナー違反ですし、お、音漏れも迷惑です。マナーを守って乗車してください!」



言いたいことは言った。
これでいいと自分の中では納得したというのに。



彼等は面白そうに顔を見合わせた後


「「「ハハハハハっ!」」」


大爆笑。


私、面白いこと何も言ってないのに。