意地悪い顔を見つめながら私の反応を待っている大和さんは、ほら。なんて煽ってくる。
「き、キスって恋人同士がするものじゃないんでしょうか。」
思わずそう言えば、横で銀次さんが騒ぎ出した。
「若!あかんって!こいつ絶対恋愛経験ゼロの超純粋女やで。キスとかハードル高い!!からかいすぎや!!」
「………」
確かに恋愛経験ゼロだけど、改めて言われると恥ずかしいからやめて欲しいよ……
「うるせぇな。銀次」
「大体、こういう世間知らずそうなお嬢ちゃんは厳しい家で育てられてるんやって。ファーストキス奪って責任取らされたらどないすんねん。」
すごい量の会話を1人でし続ける銀次さんはそっとしておいて、私はおずおずと大和さんに質問をする。
「あ、あの…どうしてもキスですか?」
「なら他に何してくれんの?」
……他……
頭の中で色々考えた末、友達がやりやすいものにたどり着いた。
「あ、握手とかどうでしょう?」
割と本気でそう言ったのに、銀次さんがまたしてもお腹を抱えて笑い出す。
「あ、あ、握手っ!!!」
ギャハハとよく響く笑い声。
そんなに面白いこと言ってないと思うんだけど。だって笑ってるの銀次さんだけで、大和さんは真顔だし。
「…色気のねぇこと言うな。お前」
「だ、だって、やっぱり友達でキスは!」
もしかしたら今の流行りなのかもしれないと考えたけれど、それにしても無理がありすぎる。
亜紀ちゃんとだってしたことないのに。
「なら帰る」
だけど私のNOに彼は、フンッと鼻を鳴らした。
「え、か、帰っちゃうんですか!?」
「こっちは親交を深めようと頑張ってるのに、そんなこと言われたら萎えるだろうが。」
「え、いや、か、帰らないでください!」
まだ名前しか知らないのに。とブンブン首を振れば
「ならできるよな?」
と眩しい笑顔。
…初めて会った時とイメージが違う。
それなのに、それなのに、私ドキドキしてる。
「あ、う、えっと」
しどろもどろになった私を見てクスクス笑った彼は、またクイッと顎を開けてきた。
「できねぇなら、別にしてやってもいいぞ。」
「っっ!!?」
大和さんからのキス……
それっていいの?しかもこんな公衆の面前で。
「…いじめすぎやって。いたいけな少女を」
「いじめてるわけじゃない。あくまで仲良くなるためだろう。ただし、俺からだと激しくなることを覚悟しておけよ」
オモチャで遊ぶ子供のような笑顔。
キスの激しいってなに?想像もつかない。
「も、もう!若!キスなら俺がしたるさかいに!」
「気持ち悪りぃな。離れろ銀」
近づいて来た銀次さんが振り払われて、私の目を彼は真っ直ぐ見据えた。
心臓がドキドキして痛い。
「目……閉じろ。真子」
名前を呼ばれては、従うしかないみたいで彼の言う通りゆっくりと目を閉じた。
……私のファーストキス……

