言えた……と達成感に浸っていたのに、先に聞こえたのは彼の声ではなく、お兄さんの笑い声
「わ、若とこのチビが友達!?あっはっはっは!!最高や!コメディやん!!!!」
……そこまで笑わなくていいのに。
本気で友達になりたいと思ってる。
お腹を抱えてまで面白いことは言ってないよ。
「…わ、笑わないで下さい」
「あのな…チビちゃん。いままで若と仲良くなりたいって子はいっぱいいたんやで。まぁ、そんなん上辺だけやけどな」
「私は上辺だけじゃ…」
「やめときやめとき。お嬢ちゃん見るからに純粋無垢やん。まさに月とスッポンや。」
この人はきっと、生きる世界が違うと言いたいんだろう。その通りかもしれない。
けれどこれは私の決意だ。
そんなことで覆ったりしないもん。
「私は……貴方にじゃなくて彼に聞いています……」
当の本人が何も言ってくれず、お兄さんばかりペチャクチャ話してくるのでおずおずとそう言った。
「…なんや偉そうに!!…若ぁ…このチビちゃんに言うたって!!お前と俺とじゃ住む世界が違う。ってな」
「一々うるさいんだよ。お前は」
はぁと大きく吐かれるため息。
私はゴクリと息を飲んで彼を見つめていた。
「あの…」
「悪いけど、友達なんてもんはいらねぇんだ。お前みたいなお人好しの世話をするのもめんどくせぇしな。」
「わ、私なるべく気をつけます!!まずはRAIN友達でもいいです!」
スマホに変えて入れたばかりのメッセージアプリ。それくらいならとまずは提案してみたけど、全くもって反応がない。
「何が嬉しくて……お前と友達になるんだよ」
「そ、それはわかりませんけど、いつかはクレープを食べに行ったりしたいです!!」
私が話すたびお兄さんがクスクス笑ってる。なんなら
「クレープ……若が…ぷぷっ」
独り言が漏れてる……
「お、お願いします。お名前教えてください」
それを気にしないように必死で頼み込むと、一歩前に進んだ彼は私の顎をつかみクイッと上にあげた。
「……今ここで俺にキスしたら考えてやってもいい」
発せられた交換条件に思わず目が見開く。
き、キス?
「わ、若!幼気な少女になんてことを!!」
お兄さんが キャー! と顔を隠しながら面白そうに笑っていたけれど、私は状況がわからないまま。
「わ、私…あの…」
生まれてこのかたキスなんてしたことない。
困ってしまったからか自然と泳ぐ私の目。
そんな様子を見て、フッと彼は笑った。
「無理なら諦めろ。じゃあな。」
私ができないということを初めから分かっていたんだろう。顎を解放しそのまま背中を向けて、お兄さんと車の方に歩いていってしまう。
「若、女の扱いうまいですね。あの交換条件はひどい。」
「うるせぇ……ってか銀、お前迎えにくんなって言っただろう」
もう私とは2度と会うことない。そんな雰囲気だ。
これでいいの?
一目惚れして、亜紀ちゃんの反対を振り切った結果がこれ?
そんなの言いわけない。
「ちょっと待ってください!!」
離れていく背中に向かって叫んだ声で、ゆっくりと彼が振り向いた。

