言えるわけない。
ヤクザの息子さんに一目惚れしたなんて。
きっとお兄ちゃん、驚きすぎて心臓麻痺起こすよ……。
「な、なんでもないよ」
「本当か?真子は、頼まれたことは何があってもやるっていう性格だから、何かに巻き込まれたのかと心配してたんだ…」
「荷物を沢山持ってるおばあちゃんがいて、運んであげたら本来の目的を見失っちゃって……」
財布の存在に気付いていたのだから中々無理のある言い訳。本当のことに交えた少しの嘘で、罪悪感が湧いてきた。
お兄ちゃんは、ふぅと息を吐くとポンッと頭の上に手を置く。
「何かあったら……相談しろよ。」
そんな兄の優しさにまた胸がズキズキした。
「ありがとう……」
お兄ちゃんは大きくあくびをした後、受け取った財布を手に持ちながらそのまま部屋を出て行った。
お兄ちゃんに相談か…
『私、ヤクザの息子さん恋した!』
『……諦めろ』
うん。結果が目に見えすぎていて言えるはず無い。
そのうちかけていた目覚まし時計が鳴ったので、それを止めて学校へ行くための準備。
…亜紀ちゃんに言うしか無い。
一人で抱えるには、少し問題が大きすぎる。
一通り用意を終え、お母さんが用意してくれた朝ごはんを食べてそのまま通学。
亜紀ちゃんと合流し、私は彼女に決意を発表した。
「亜紀ちゃん……私、彼とお友達になりたい。」
その言葉に怪訝な顔をした亜紀ちゃんは、無言でデコピンを発射。
「い、い、痛い!どうして!?」
「どうして?じゃない。諦めたんじゃなかったの??」
ヒリヒリしたおでこを撫でながら
「それがね……」
と昨日あった出来事を話す。
亜紀ちゃんは、あー!と頭を抱えると何やら一人で喋りだした。
「あの顔で、そんなことするなんて!!あの男!私の可愛い真子をどうするつもりなの!?悪の道に引きずり込む気!?」
……悪の道……
確かにヤクザさんという肩書きは、かなり世間体が良く無いと思う。だけど、あの人自身悪い人じゃ無い。それは絶対だ。
「みんな外目だけみて誤解してるけど、あの人は絶対いい人なの。そうじゃなきゃあんなに人に優しくなんてできないもん。」
「わかんないわよ。恋したら何割増しでかっこ良くなるんだもん。フィルターがかかってるだけよ」
「そ、そんなことないよ!」
「そうなの!悪いことは言わない!傷の浅いうちにやめときな!!」
彼女の言葉に大きく肩を落とす。
このまま諦める……?
だけど……
『……あんまり無理すんなよ』
やっぱり……できない。
「お友達だけでいいから……仲良くなりたいよ………」

