なぜ…こんな時間に?
なんて呆然としている私の手から、彼は荷物を取り上げた。
「これ、上に持っていけばいいのか?」
そして優しい一言。
「あ、は、はい。エレベーターを」
「よく見ろ。点検中だ」
え!?と目の前にきたエレベーターを見ると、確かに点検中の文字。最悪だ…全然気付かなかった。
「…あ、あのごめんなさい」
「いいから。そっちの荷物でも持ってやれ」
「あ、は、はい。」
口調は怖いのに、おばあちゃんの小さな荷物まで気にしてくれる優しい気遣い。
心臓がドキドキと速くなってくるのがわかった
「2人とも…すまないね…」
申し訳なさそうなおばあちゃんと階段をのぼり、上にあがると改札口で、女性がこっちを見て手を振っているのが見える。
娘だと彼女が言ったので、そのまま事情を説明し、車に荷物を乗せるところまで手伝った。
何度もお礼を言った2人は、車に乗って去っていく。
……どうしよう……2人きりだ
「……お前、お人好し過ぎだな。」
この状況にドキドキしているのはもちろん私だけで、いきなり彼からかけられた言葉に苦笑い。
「あ、その、ごめんなさい。何度も助けてくれてありがとうございます……」
「別に……足元はちゃんと見ろ。本当に転ぶぞ」
「す、すみません。」
お説教されてしまった……だけど話せたことが嬉しくて、怒られているのに顔がにやけてしまう。
「……人を助けるのもいいが、あんまり無理すんなよ」
おまけに去り際に放たれたセリフと、頭に乗った大きな手。
そのままスタスタと歩いていく背中を見送る形になっていた。
「…あ、あのありがとうございました!」
大きな声で叫べば、軽く彼の右手があがる。
目が離せなくてみるみるうちに顔が熱くなっていた。
頭を撫でてもらっちゃった……
いままで、警察官の娘というのを誇りに思って生きてきたけれど
今日初めて、自分の運命を呪った。
どうしよう……
諦められなくなっちゃうよ。

