私と目も合わせず、質問だけする佐山くんにキョトンとする。
「……なに?」
私だってそんなこと言われたら、その質問とやらが気になるよ…。
「いや…その…笹本が失恋したやつってどんな人??」
「え!?」
おずおずとされた質問に思わず目を見開いた。亜紀ちゃんが余計なこと言うから!!
佐山くんがそんなことを気にするなんて、思ってもいなかったけど…
「し、失恋というか、そのまだ電車でちょこっと話しただけなの!! だからそれは大袈裟というか…亜紀ちゃんが面白がってるというか…名前も知らないんだよ!」
「あ、そ、そうかぁ。なんだ」
彼はホッとしたような顔をすると、あははと笑った。
まだ失恋と呼ぶには浅いよね……
なにも失ってないもん。
俳優さんとか見たときのドキドキを恋と勘違いしてるだけ。それだけ…
自分にそう言い聞かすと
「笹本」
真剣な顔をした佐山くんに呼ばれた。
「なに?」
「あのさ……俺……」
「うん」
「その、あの…」
「?」
グッと拳を握って珍しく目をそらさない彼の言葉を、私は待つ。
「お前のことさ…」
しかしやっと佐山くんが何か言おうとした瞬間
タイミング悪く、着信音が教室に響き渡った。
「わ、き、今日マナーモードにするの忘れてたんだ。危ない!!」
私のポケットが震えたので、慌ててそれを取り出す。授業中になってたら大変なことだ……
表示されてる名前はお兄ちゃんで何かあったのかと思い、電話に出てしまった。
ごめんね…と佐山くんに目配せ。
「もしもし、お兄ちゃんどうしたの?」
『あ、真子。実は今日俺、夜勤でさ……それなのに財布を玄関に置き忘れてきたんだよ』
「え、大変だね……」
『使って悪いんだけど、持ってきてくれないか……電車一本だから場所わかるよな…?』
「あ、うん!!任せて!」
私の了解を得て、お兄ちゃんは ありがとう と言うとそのまま電話を切った。
一回帰らないと。お兄ちゃんが財布を玄関に置き忘れるなんて、珍しいなぁ…。慌ててたのかな。
携帯からやっと視線を移して佐山くんのことを思い出す。
「あ、あ、ご、ごめん。なんだった?」
「うるせぇ!!もういいよ!!ちび!!」
教室に響いた佐山くんの声
そしてそのまま彼は、ゴミ箱を持つと扉を開けて出て行ってしまった。
怒らせてしまった……確かに話の途中で電話に出たのは、私が悪い。
後日ちゃんと謝まって、お礼もしよう。
今はとりあえず困ってるお兄ちゃんの為、財布を取りに帰宅することにした。

