「失礼します」
父の部屋まで行くと、ひと声かけてから襖を開ける。
「やっときたか」
厳格という言葉を表したような狐。
それが私の父だ。
「…ご要件は」
「…うむ……………そこに座れ」
早く部屋に戻りたい、ここに居たくないのに、座れと言われてしまった。
これに逆らったらまた面倒くさくなるので、示された位置に座る。
「……今日はどこに行っていた」
ド直球。
この人としたくない会話が出だしできた。
「………下界に、行ってました」
「…人と会ったのか」
……どう答えたらいいんだろう。
男と会ってましたなんて言ったら確実に怒鳴られる。
それに、下界行きを禁止されてしまう可能性もあった。
それでは蓮巳くんと会えなくなってしまう。
……。
「………言いたくないのなら構わんが」
私が何も言えずにいると、父は袖から1枚の紙を差し出した。
「来週、この男性と会ってもらう」
差し出されたのは写真だった。
そこには、白い鱗が肌に埋め込まれた、白蛇の男性。
その写真には見覚えがあった。
たしか、姉さんが………。
「………それ…」
どうして父さんがこの写真を?
「お前がこの男性に気に入ってもらえたならば、結婚を前提に交際してもらう」
「っ、お見合いってこと、ですか」
「あぁ」
父は写真を袖にしまいつつ口を開いた。
「お世話になっている業界の嫡男でな。身柄は文句ないだろう」
身柄、という言葉に、私はつい声を上げてしまった。
「父さん、私は…」
「口答えするな」
「…、なら…一つだけ聞かせてください……どうして今回の件、姉さんではないのですか」
だって、姉さんは………。
小さい頃に、2人で約束したって。
その写真の白蛇の彼と、一緒になろうって。
「お前の姉は銀色だからな。価値が下がってしまう。その点、お前は美しい金の毛並みがある」
………それだけ?
それだけの理由で、姉さんじゃなくて、私なの。
「…姉さんは、彼に恋してる、と…」
なのに。
「そんなこと関係ない。あっちの方も、決めるのは本人の親だ」
………………どうして。
だって、銀色ってだけでしょう。
それだけで姉さんは除外されて、他に好きな人がいる私になるの?
………ねえ父さん。
やっぱり、貴方は。
……私たちを、道具としか思っていないのね。