「ただいま」
「おかえりー!」
ほっと息をついて家の中に入ると、まだ幼い妹たちが走ってやってきた。
「おかえり、珠紀。それで?人間には言ったのかい?」
妹たちの後ろをゆるゆるとついてきたのは、銀色の姉さん。
「……言えない。だって、嫌われてしまうわ」
それなら、言わなくたって。
「それじゃあ、あんたはまだ本当に受け入れてもらったわけじゃないんだ」
………私は彼といたいだけなの。
受け入れてくれなくたって。
……………………。
「……珠紀には幸せになって欲しいんだよ。姉としてね」
わかっているわ。
人との恋は、妖怪にとって重すぎる。
妖怪は彼らに一方的に畏怖され、嫌われてきた。
それはわかっているけれど。
私は、彼と……。
「……私みたいになって欲しくないんだよ」
姉さん…。
姉さんはもうずっと長いこと恋している。
子供の頃の約束をしんじて。
「それに……父さんのこともあるしね」
「……、…」
父さん。
妖怪の世界ではそれなりに偉い地位にいる父は、私を上役に嫁がせる気でいるようで。
………………。
「姉さん」
父を思い出して沈んでいると、姉の後ろからゆったりとした仕草で歩いてきたのは、金色の毛並みを持つ弟だった。
「父さんが呼んでるよ。珠紀はまだ帰ってこないのかって」
「……わかった。今行くわ」
たぶん、父は気がついているんだろう。
私が人間に恋し、共に居ることを。