目を覚ますと、そこは明るい1室だった。
鳥の鳴き声と、太陽の光。
あぁ、どれくらいぶりだっけ。
こんな昼間に鞘から抜かれたのは。
いやだなぁ。
こんな和やかな昼に、誰かを傷つけるの?
もうやめてよ、私を、置いておいてよ。
けれど、いつまでたっても何かを切り裂く感触もなければ、振るわれる気配もない。
不思議に思って周りを確認すると、私を持っているのは、穏やかな顔をした男性だった。
その見た目からして、おそらく武士か、剣士。
闇色の、静かな瞳をした美男子だった。
「これが、妖刀月切ですか」
「えぇ。恐ろしいでしょう。今まで幾人を切ったか数えられないほどですからね」
男性の質問に、私の持ち主が答えた。
威張るように、残酷なことを誇らしげに伝える。
恐ろしいと言われるのは、妖刀故か。
貴方も、きっと私で大勢を切るのでしょ?
はやく鞘に戻してくれないかな、と思っていると、彼は穏やかに微笑んだ。
「そうでしょうか。……恐ろしいよりも、はるかに美しいではありませんか」
初めてだった。
私を見て、美しいという人は。
彼ならば、もしかしたら。
私を、私の願いを、聞いてくれるかしら。
私は、彼に引き取られた。
私を引き取った彼は、雅俊という剣士だった。
彼は私を引き取ったあと、いつも腰に下げてくれた。
けれど、私を抜くことはなかった。
後に、彼がむやみな殺生を好まないことを知り、彼を知りたくなった。
雅俊様の近くに、人としてありたいと、願った。
私は彼に、恋をした。