サラサラと風に揺られ、木の葉が揺れる。
今日も今日とて人気のない神社。
しかし、祠の掃除をする娘が1人いた。
長く美しい黒髪を束ね、せっせと祠を片付けていた。
『いつも真面目だな』
彼女の耳に、低い男性の声が響く。
「なにせ、命の恩人ですからね」
ふふ、と微笑んだ彼女は、手を止めて祠に目を向けた。
『恩人とは言っても、元のとおりにはできなかったがな』
男性の声に、彼女は自身の右肩に触れた。
そこには、漆黒の翼が生えていた。
それを大切そうに撫でながら、彼女は呟いた。
「……いえ、むしろこちらのほうが、ありがたいです。………彼とお揃いですもの」
その言葉に、祠の主はふっと笑って、その気配を消した。
それに気がつくと、彼女は立ち上がって空を仰いだ。
相変わらず、サラサラと柔らかな風が葉を揺らしていた。
しかし、突然強い風が吹き抜け、彼女は目を瞑る。
「何をしている?」
その一瞬の後、彼女の背に何かが触れ、そのまま彼女を抱き寄せた。
彼女はそれを感じると、ふふ、と微笑んだ。
「いえ。風が気持ち良いなと」
彼女は後ろを振り返ると、そこに立つ人の背に腕を回し、抱きしめた。
「おかえりなさい、美影様」
美影は愛しい彼女の髪を撫でながら、柔らかく微笑んだ。
「ただいま、千鶴」
しばらくそうして抱き合っていた2人は、やがて身体を離すと。
美影が千鶴を抱き上げた。
そんな美影に、千鶴は困ったように微笑んで。
「片翼で私を抱いて飛べますか?」
と、首をかしげた。
「流石に遠くは無理だが、泉までなら不都合ない」
彼女にそう返した美影は、左翼を広げ、そらに飛び立った。